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薄桜鬼ー雪光録ー
- 第三十五話 記憶 -





「…平ちゃん」
「なんだよ」
「……これ、だいぶやばくないですか?」
「やばい?」
「ああ…だいぶ危なくないですか?」
「…そうだな」
私と平ちゃんは前を見据えて言葉を交わした。
その間にも何度も撃たれる大砲。耳をつんざくような音と振動にも、もうだいぶ慣れてきている自分がいる。
「ま、行くっきゃねぇだろ。な?」
「まあそうなんですが」
私たちは顔を見合わせて、お互い飛び出した。援軍を呼びに行っている真雪ちゃんたちのためにも、土方さんのためにも、ここで精一杯抗ってみせる。
「よっ…と」
今出せる動体視力をフル稼働する勢いで、飛んでくる銃弾を切り捨てる。
そのまま大きく踏み込んで跳躍し、敵の前に躍り出た。
「さあ、新選組八番組隊士の腕を見てもらいましょうか!」
「組長も忘れてもらっちゃ困るぜ!」



斬っても斬っても敵はまだいる。
こっちは疲労困憊だというのに、向こうは疲労なんて見せずに銃を構えてくるのだ。味方の数は減る一方、けれども敵の数は援軍で増える一方。
「歌恋っ!こりゃ帰った方がいいと思うぜ!!」
「同感です!」
遠くだから声を張り上げていた私たちは、バッと味方の方を向いた。
「退却ー!!!!」
平ちゃんの声が聞こえた途端、ハッとして一瞬悔しげに顔を歪める隊士さんたち。しかし、すぐに走り始めた。少しでも早く退却するため、少しでも多く生き残るため。
「歌恋、時間稼ぎくらいはできるよな?」
「こっちの台詞ですよ」
私たちは再び敵の方に向き直り、小さな笑みを浮かべた。
と、急に背後に気配が現れる。
「すまぬ、遅くなった」
「…っびっっくりしたぁ…」
一君でしたかあ…!!!
一君はあちらこちらに泥だの返り血などをつけて、見た目はボロッボロ。だけどまだ戦う力はあるようで、素早く刀を構えた。
「三番組も既に退却を始めている。俺たちで時間を稼ぐぞ」
「おうよ!」
「はい!」



「…みんな、戻れたかな」
「そうですね」
あれから少しして、おそらくみんな本拠まで帰ることができた、と思う。
一君と平ちゃんは流石に疲労の色が濃くなっていて、そろそろ戻らないと危なそう。
「そろそろ戻りまーー」
「伏せろ!!!」
私と平ちゃんから少し離れた場所にいた一君が、目を見開いて叫ぶ。
咄嗟のことに反応できなくて、私と平ちゃんは立ったまま爆風をあびた。
身体が煽られ、宙に浮く。
大砲が近くに落ちたのだ、と気づく頃には、頭を地面に強かに打っていた。
「あ…」
視界が霞む。
慌ててこちらに駆け寄ってきた一君は、ひょいと私と平ちゃんを持ち上げて走り出した。
一君、力あるなあ………。
そう思いながら、私の意識は闇に堕ちていった。





















「土方さん!!!」
勢いよく広間に駆け込んできた月姫に、何事かと土方は腰をあげる。
そんな土方の前で、月姫は潔く頭を下げた。
「少し行くのが遅れてしまって、手遅れになった……これは僕の責任でもある。申し訳ない」
「………いや、何のことだ?」
確か先ほど淀藩が寝返ったとの知らせを聞いて慌てて飛び出していったはずだが。
言葉の外で聞きながら、なんとなく違和感のようなものを感じていた。
援軍を呼びに行った三人がいない。
それを聞こうとして口を開いた土方だが、そこから言葉が紡がれるより先に月姫の声が響いた。
「…井上組長と、藤堂真雪が戦死した」
「………はっ?」
広間が、水を打ったように静まり返る。
六番組隊士が、一番組隊士が、呆然とこちらを向いた。
土方も驚く。
井上と、真雪が?
一瞬意味がわからなくて、思わず間抜けな声が出てしまった。
「帰り道、三人は敵に遭遇したらしい。
真雪君と千鶴ちゃんを庇って戦おうとした井上さんはそこで殺された、と。真雪君は木の陰から千鶴ちゃんを襲おうとしていた敵を身を呈して守った。…僕が来たのはここだから、詳しくはわからないけれど……。
もちろん、残ってた敵は僕が倒しておいたから安心して」
「………千鶴は、どうした」
土方の問いに答えようとした月姫だが、後ろから現れた斎藤に、開いた口を閉じた。
「ここからは俺が説明します。
八番組と三番組が退却する際、俺と平助、月色が時間を稼いでいました。しかし、敵の大砲が近くに着弾し……爆風に煽られた平助と月色は飛ばされて頭を打ちました。
雪村は現在二人の手当てをしています」
「……そうか」
それしか言えない。
やはり、あの時無理にでも止めておくべきだったのか。いや、今回の戦死に病は関係していないはずだ。それでも、どうしても後悔の念が頭にチラつく。
と、控えめな足音が聞こえてきて、ゆっくりと千鶴が姿を現した。
「………応急処置は終わりました。
…っそれで、意識を取り戻した二人に…真雪君のことを言おうとしたんです」
「…うん」
それがどうかした、と月姫は目で問う。
千鶴は目に涙をためて、顔を上げた。
「……………真雪君は私のせいで死んでしまった。ごめんなさい、と伝えました。
…っそうしたら…っ」
ついに泣き始めた千鶴に、ただ事ではないと察した土方達はじっと言葉の続きを待つ。

「……二人とも、そんな人は知らない、聞いたことがない名前だ、と…」

そう言ったんです。
千鶴は言ってから、顔を手で覆って嗚咽を漏らした。
月姫も、斎藤も、驚きを隠せずに目を見開く。
それはもちろん土方も同じで、何も言えずにただ呆然と立っていた。
「……それは、本当なの?からかっているとか…」
「歌恋ちゃんと平助君が、この手の話でからかうことなんてしないです!だから、私、どうしていいかわからなくて………」
たしかに、あの二人がこんなことで千鶴をからかうとは思えない。
しかし、真雪の記憶だけがなくなるということがあるのか。
「…今は、混乱してるだけかもしれないよ。
また明日にでも、確認してみよう」
月姫の静かな声に、千鶴はこくりと頷く。
「…そうだな。今は寝かせてやれ」
衝撃的な話をこの短い間にいくつも聞いた土方は、そう言うだけで精一杯だった。

ち、千鶴ちゃん伝言!伝言忘れてますよ!!!
<2017/12/07 05:56 水瀬 玲>消しゴム
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