僕の隣で、永倉さんとご飯の取り合いをしている平助さん。
僕の目の前で、我関せずと焼き魚を口に運ぶ一さん。
その隣で、さりげなく平助さんのお浸しを食べている歌恋さん。
…見なれてきた風景だけど、なんか違和感。
「……あ。」
不意に思いついて、僕はつい声を出した。
「どうした?」
左之助さんに言われ、僕はおずおずと口を開く。
「歌恋さんて……幹部さん、でしたっけ?」
僕も人のことは言えないけど、ここら辺は幹部の人が座る筈じゃ……。
席とかはあまり決まっていないけど、少なくとも歌恋さんが居るところは幹部の皆さんが座るあたり。
でも歌恋さんが幹部っていうのは聞いてないし…。
「ああ……これですか。なぁんか、過保護な誰かさんがこっちに居ろって言いまして。」
「……え?」
過保護な…誰かさん?
……誰だろう…。
「ほら、上座の副長さんです。」
「副長…………?」
えっと…副長さんは……………
僕は上座の方にいる三人をじっと見た。
土方さん、近藤さん、山南さん………。
副長さんは土方さんだとは思うけど、よく考えたら山南さんは名前しか聞いてない…。
それに土方さんが過保護って、なんか想像ができない。
「あれ、通じませんか?
あの人ですよ、土方さんです。」
「……えっ!?」
過保護なの!?
なんだか、意外。
「でも、何故土方さんが過保護だと歌恋さんが幹部の席に座るんですか?」
僕がそう聞くと、歌恋さんはニコッと笑って答えてくれた。
「ほら、私って男装してるじゃないですか。
そこで私が事情を知らない人たちと一緒に居るのが不安なんじゃないですか?
千鶴ちゃんもこちらに居ますし。」
あ…なるほど。
そういえば、歌恋さんは男装しているんだよね。
確かに、何も知らない男の人達にっていうのは…………その、言いづらいけど男色の方に好かれそうな顔しているっていうか……その、まあ、その……………。
「……何か失礼なこと考えてません?」
僕がもごもごとしていると、歌恋さんはじとっと僕を見つめてきた。
その迫力というか、威圧感というか……その何かが怖くて、僕は慌てて答える。
「いえ!そんなことは!いえ!」
「……そうですか?」
「はい!」
僕の返事に、歌恋さんは少し不服そうな顔をしながらも納得してくれた。
すると、次はじぃっとさっきとは違う顔で見つめてくる。
「……真雪ちゃんて、剣術は心得てますか?」
「……?はい……」
剣術なら、お父様とお母様に教えてもらったけど…。
「じゃあ、手合わせしましょう!」
「手合わせ、ですか?」
「はい!なんかやりたそうな顔してますよ♪」
歌恋さんは僕の頬をむぎゅっと両手ではさんでにっこりと笑った。
「もし良かったら、この後やりましょうね。」
「あ、はい…」
……歌恋さんは、強いのかな。
よくわからないけど、少し、楽しみ。
「真雪………死ぬなよ。」
「……え…」
平助さんの言葉に、僕の顔は一気に青ざめた。
……歌恋さん、強いんだ。きっと。
朝餉の後、僕は平助さんに連れられて稽古場へ向かった。
「頑張れ、真雪!包帯とかは用意しとくからさ。」
「え……あ、はい……」
僕の中に不安が渦巻く。
……そんなに、強いの………?
おずおずと平助さんから木刀を受け取り、僕は歌恋さんと向き合った。
「手加減は要りません。好きに来てくださいね。」
「ならば、お言葉に甘えて…」
僕はすぅ…と息を吸い、木刀を構える。
真っ直ぐと歌恋さんを見つめ、僕は一歩踏み出した。
勢いに任せるように、突きを繰り出す。
かなり速かったと思うんだけど……歌恋さんは笑顔であっさりかわしてしまった。
本当に、強いんだ………。
それを証明するかのように速く強い、歌恋さんの一振り。
なんとか避けれたけれど、重い一撃だって分かった。
……音が、怖すぎる……!!
一合、二合と打ち合う僕たち。
心地よい緊張感の中、僕は無意識に口角を上げていた。
一瞬、歌恋さんに見えた隙ーー
それを僕は見逃さなかった。
空を斬る音を立てた僕の木刀は、歌恋さんにピタリと当たる。
「………ぁっ……一本!」
平助さんは慌てたように言う。
「なぁんだ、負けちゃいましたかぁ………。
私を負かせたのは二人目ですよ、雪ちゃん♪」
……女の人、だよね……………。
僕は思わず凍りついた。
「………ち、因みに一人目は……」
「……俺だ。」
「ひゃぁあぁっ!?」
……また、叫んじゃった。
ごめんなさい、一さん………。
「…藤堂。あんた、中々の腕だな…。今度、手合わせ願いたい。」
「えっ、あっ、はい!」
つい背筋をピシッと伸ばして返事を言う。
それを見て、一さんは少し笑ってくれた。
「一君。」
「なんだ?」
次の瞬間、僕は固まるどころじゃない驚き…というか、なんというか……不思議な感覚に包まれた。
「藤堂、だと二人居るのでいっそ真雪ちゃん呼びどうですか?」
ちゃん呼び!?
「え…………」
一さんから出た言葉は、「え」に濁点が付いていそうなものだった。
……恥ずかしいけども……そんなに、嫌なのかな…………。
じわ……と涙が滲みそうになった潤んだ瞳で、僕は一さんを見上げる。
「ーーっ!!」
あれ、一さん…どうしたのかな?
顔が赤いような……。
「……ま、真雪…………」
「ちゃん、は?」
「言うわけが無かろうがっ!!!!」
………名前呼び………。
僕もしているけど、してもらうのって凄く恥ずかしい……!!
顔が真っ赤になっていくのが凄くよくわかる。
言い訳したいんじゃないんだけど、その後一さんとの勝負で負けてしまったのはその所為だと思う……。
