おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
薄桜鬼ー雪光録ー
- 第七話 道場にて -



あれから数日。
道場で、僕はただ固まっていた。
目の前に立つ大柄な男の人、総司さん。
冷たい目線を僕に落としてきて、眉毛も疑わしげに潜めている。
「……歌恋ちゃんを負かせたって、ほんと?」
「え……あ、はい……」
僕がおずおずと返事をすると、総司さんは「ふぅん。」とつまらなそうに返してきた。
「……ま、手合わせでもする?」
ついでと言わんばかりな表情で言われたけれど、目はやる気満々のようで。
僕は思わず、
「はい!」
と元気に返事をした。



僕と総司さんは木刀を手に対峙する。
たまたまその場に居た平助さんに合図をお願いすることにした。
「……真雪、確かに総司と歌恋じゃ歌恋の方が強い。でも油断すっと直ぐに叩きのめされるからな。」
「油断なんて、しません。」
平助さんの言葉に、僕はハッキリと返事をする。
だって…
「油断なんて、相手に対して失礼ですから。」
「………そっか。」
僕が真っ直ぐと前を向くと、少しだけ面白そうに総司さんが口角を上げるのが見えた。
お互いに、準備は出来ている。
平助さんは僕たちを交互に見て、合図をした。
その声とともに僕は素早く踏み込む。
総司さんは、兎に角動きが素早く、力強い。
歌恋さんみたいに滑らかな素早さではなく、一つ一つが分かれていて、その一つ一つが恐ろしく速いと平助さんに聞いた。
そして、体格差的にも僕は速さを重視した方が良いだろう。
しかし、僕の突きは呆気なく避けられた。
代わりにと言わんばかりに総司さんが踏み込む。
一つだと思っていたその突きは、三つも飛んできた。
なんとかそれをかわして今度は打ち込む。
総司さんはそれを受け、鍔迫り合いのような状況になった。
「流石、歌恋ちゃんから一本取っただけあるね…!一度で終わらせようとしてたのに、全部避けちゃうなんてさ!」
「総司さんこそ、僕の突き全て避けてるじゃないですか!」
二人で笑いながら力を込める。
話すことで息は更に上がるけど、それでさえ何処か心地良い。
一度お互いに離れて、僕はしっかり木刀を握りなおす。
「…行きます!」
という声を合図に再び踏み込むと、僕は総司さんの真似をしてみた。
さっきよりもずっと速く、三つの突き。
総司さんは大きく目を見開いた。
「…っ!」
ちょっと初めてでずれちゃって、下に、横にそれたけれども、僕の突きは総司さんの脇を確かに突いた。
「い、一本!」
道場に、平助さんの声が響く。
その途端、周りで見ていた一番組隊士さんたちは湧き上がった。
「すっ、すっげぇ…!!」
「沖田組長を負かしたぞ、あいつ…!」
「月色も負かしたって聞いたよ俺!」
「まっじっかっよっ!!」
「お前、マジかよの言い方気持ち悪いな。」
「はあ!?」
………うん、一番組の皆さんは仲が良いんだなあ。
でも、こんなに褒められて?悪い気はしない。
ちょっと照れちゃって、僕は困りながらも笑ってみた。
ーー次の瞬間、僕は本当に男なのかという議論が始まった。
……あれ、…前にもこんなことあったような…。



「あははっ、それは災難でしたね。」
「本当ですよー…」
あの後、歌恋さんのお部屋にお邪魔させてもらってお茶をしている。
歌恋さんのお気に入りらしいお饅頭は、確かに程よい甘さとしっとりした皮がとても美味しい。僕も甘さ控えめが好きだから、嬉しいな。
「でも確かに、真雪ちゃんは可愛い顔してますよね。」
「そうですか?」
歌恋さんの言葉に、なんとなく複雑な気分になる。
褒められているのはわかるけど、僕は一応男だ。可愛い…というより、格好良いとかの方が嬉しい。
でも、格好良いって言われたことないんだよなあ……。
「ふふっ、微妙な顔してますね。」
歌恋さんは少し可笑しそうに笑った。
歌恋さんに似合わない表情なんて、ないんじゃないかな。
そう思ってしまうほど、その姿は綺麗。
儚さをまといながらも何処か芯が強い。
僕の中にわずかに残るお母様の姿みたい…。
いっ、いや、失礼だよねこんな若い女の人にっっ!
「…?どうかしました?」
「えっいやっ何も!」
僕の様子に歌恋さんは少し不思議そうな顔をしたけれど、すぐに微笑んだ。
「真雪ちゃん、ころころ表情が変わるので見ていて楽しいです。」
これまた、複雑な……!
歌恋さんはまた一つクスリと笑う。
「本当に、可愛い子ですね。」
突然優しく頭を撫でられ、驚きと嬉しさで僕の頰は熱くなっていった。
「そ、そんなこと…!」
「あるんですよ。自分に自信を持ってください。」
「……」
自分に、自信………。
あまり考えたことないな。
どうすれば良いんだろう……。
なんて考えていたとき。
「真雪ちゃんは目の色が綺麗で肌が薄くてすべすべで足が長くて、指先が繊細でまつ毛が長くて兎に角可愛いんですから!」
「……っ!!」
唐突な誉め殺しのようなとどめの一言に、
「あっ、真雪ちゃん!?」
僕の意識は遠くへ落ちていきました……。

……この時代に「まじ」ってあったんでしょうか…。
<2016/12/29 15:00 水瀬 玲>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.