「ヨゾラ。早速だけど、チュートリアルを始めよう」
ふわふわと宙に浮きながらそんな言葉を俺に向けるのは、この世界での初の交流相手シフォンだ。一人称が僕だから性別は多分男だと思う……。
「そのチュートリアルなんだけど、結局のところ何をするんだ?」
「ヨゾラ、街に行かないかい?」
「まち……?」
俺の質問にシフォンから帰ってきた言葉は、質問の答えには程遠く、かけ離れたものだった。
「ここから歩いて十分くらいの距離に、“はじまりの街”がある。そこに今から行かないかい?」
シフォンとの初交流から場所は移らず、二人……?一人と一匹は最初の草原から少しも移動していなかった。
「いや、行くのはいいんだけど、チュートリアル始めるんじゃ……」
「チュートリアルについての説明は街に行きながらにでもするよ!それじゃあ、ダメかい?」
「ダメ、ではないけど……」
チュートリアルを始めるとシフォンの方から言い出したばかりだというのに、この方向転換は一体何なのだろうか。
「よし、それなら行こう。僕が案内するから着いてきてくれ!」
そう言って先を進み始めるシフォン。その後を追うようにして俺も歩み出す。
草原に広がる草を踏みしめる感触、風が運ぶ大自然の匂い、それらはやはりリアル(現実)と区別がつかないほどに完璧だった。
「で、行きながらチュートリアルの説明をしてくれるんだろ?」
無言で先を進むシフォンに背後から声をかける。その声に反応する形でシフォンがくびれの無い体型ごと振り向く。
「そうだね、チュートリアルの説明を始めようか」
「おう!」
威勢よく返事をすると、シフォンは微笑みをこぼす。
「まずは、この世界の最終的な目的について話そうか」
The last of the worldの世界の最終的な目的。それはつまり、ゲームクリアを意味していると受け取っていいのだろうか。
ゲームクリアと言われて頭に浮かぶ情景は、魔王を倒すこと、囚われの身のお姫様を助けること、迷宮に眠りし大秘宝を探し出すことなどといったところだろうか。
「色々考えているようだけど、ヨゾラの想像していることは恐らく、全てはずれているだろう」
「なっ……まだ何も言ってないのに何でそんなことが言えんだよ……」
「言わなくても分かるさ、魔王を倒すこと、囚われの身のお姫様を助けること、迷宮に眠りし大秘宝を探し出すこと、君の考えているのはこんなものだろ?」
「……っ!?」
図星だった。図星だったからこそ、ただ黙り込むことしか出来なかった。そんな俺の心情を読んだとばかりにシフォンはどこか勝ち誇ったような笑を浮かべる。
「どうやら図星のようだね」
「最近のNPCには、心を見透かす機能でも備わってんのかよ……」
「そんな機能あるわけないじゃないか。面白いことを言うね、ヨゾラは」
「じゃあ、どうして分かったんだよ?まさか、カンとか言うんじゃないだろうな……」
カン以外に考えられる可能性があるとすれば魔法の存在だ。まだこの世界に来たばかりで、魔法が存在しているのかどうかすらわかっていない状況だが、アカウント作成の際に職業選択で俺は【魔法剣士】を選択している。【魔法剣士】という職業が存在するくらいだから、当然魔法が存在していてもおかしくは無い。
シフォンは心を見透かす何らかの魔法を使用した。それがカン以外に導き出された可能性だ。
「あ、あはは……」
と、そんな根拠の無い可能性に行き着くと、シフォンが困ったように苦笑していることに気づく。
「なんで苦笑いなんだよ」
「いや、ごめんよ。どうして僕が君の心情を読み取れたか……だよね。カンさ、カンで言ったのさ」
「は……?NPCにそんなこと出来るのかよ……?」
プレイヤーを、ゲームのストーリーにうまく誘導するための存在であるNPC。その行動は全てプログラムで動いていることが一般的だ。カンなどというふざけた回答が返ってきても納得するのに困る。
「そこも含めて、説明しよう」
そう言って、話を戻すように小さな手をパンパンと叩く。肉球がぶつかり合い、その音は少しも響かない。
「まず最初の話に戻るけど、この世界の最終的な目的についてだ。まあ、ヨゾラの思ってたようにゲームクリアだと思ってくれれば分かりやすいかもね!」
「で、そのゲームクリアはどうすればゲームクリアになるんだよ」
「存在しないんだ」
「は……?存在しないって、何がだよ……?」
シフォンの言った一言にどんな意味が込められていたのか、俺には理解ができなかった。唖然とする態度の中、シフォンは続けて
「この世界に、ゲームクリアは存在しないんだ」
飄々とした調子で言った、シフォンその言葉が一瞬理解出来なかった。
「ゲームクリアが存在しないって……どういう事だよ……?」
「言葉通りの意味さ、この世界にゲームクリアなんてものは存在しない」
ゲームクリアが存在しない。それはつまり、この世界には終わりが存在しないということだ。終わりが存在しないゲームなんて、存在していいものなのだろうか。
「どうやら今の言葉だけでは納得がいっていないようだね。無理は無い。サービス開始の今日、このゲームにログインした全プレイヤーが同じ説明を受けて、同じく納得もいっていないだろう」
腑に落ちない俺の表情を読み取ってか、シフォンは当然だとばかりに淡々と話す。
「結局のところ、なんでゲームクリアが存在しないんだよ……それじゃあ、ゲームとして機能しないんじゃ……」
「ヨゾラはゲームクリアだけが世界の面白さだと思うのかい?」
「何が言いたいんだよ……?」
「簡単さ、この世界にゲームクリアは存在しない。それは、裏を返せば自分たちで作ってしまえばいい。そういう考えにはならないかい?」
「あ……」
確かにシフォンの言う通りだ。終わりがないなら自分で作ってしまえばいいんだ。どうしてそんな簡単なことに気づけなかったのだろうか。
「この世界は無限大に広がっている。プレイヤー一人ひとりが、自分だけの目標を達成する。それが本当のゲームクリアさ。それじゃあ、納得いかないかい?」
無限大に広がるこの仮想世界では、どんなことだって出来る。どんなことだって実現可能だ。そんな仮想世界で、自分だけのゲームクリアを目指す。それは……
「最高に楽しそうじゃねぇか!」
「納得してもらえたようで僕も嬉しいよ!」
声を上げる俺を微笑ましく見つめるシフォン。その瞳は、とても仮想世界で作られた人工的なものには見えない。
「納得してもらえたところで話を続けようか」
そう言ってパンパンと手を叩きながら話の続きを促そうと空気をリセットさせるシフォン。
「この世界の最終的な目的、即ち、ゲームクリアについては分かってもらえたようだ。次の話すのは、この世界に住む住人達についてさ」
「この世界の住人って、NPCのことか?」
「まあ、そうなんだけど最初は“種族”について知ってもらいたいな!」
「種族……?」
現実世界では聞きなれない単語に、語尾が釣り上がり疑問符が浮かぶ。
「ヨゾラも新規アカウント作成時に、種族の設定を行っただろ?ヨゾラは数ある種族の中から【ヒューマン・人間】を選択したようだね」
「あ、そう言えばそんなのしたな……」
「思い出したようだね!そこで、今から説明するのはその種族のことについてなんだ」
「何となくで【ヒューマン・人間】選択したんだけど、もしかして種族によって強さが違うとかそんなこと無いよな……?」
種族選択の際、画面に表示されていたものには【ヒューマン・人間】の他には、【エルフ・森精種】、【フェアリー・妖精族】などの精霊系の種族から、【リザードマン・亜人】、【ハーフエルフ】などの人間とそれ以外の者の血が混ざった半血系の種族と様々だった。
「ヨゾラは良い質問をするね!ヨゾラの言うように、種族によって強さが変わるか、だよね……先に答えを言っちゃうと微妙な誤差はあるけど、大々的には大して違いは無いんだ」
「なんだ、よかった……いきなり魔王と戦えるレベルの種族とかあったら迷わずそれにしてたからな!」
「仮に種族によって強さに大きな誤差があったとしても、いきなりラスボスと並ぶようなものは存在しないよ。あと、この世界に魔王はいないから覚えておくといいよ」
「あ、この世界魔王とかいないんだ……」
シフォンの最もなツッコミにただそれだけ言って押し黙る。シフォンの言うとおり、いきなりラスボスと並ぶ強さを誇る種族が存在しようものなら、それはもはやチートだ。
「まあ、強さに大きな誤差は無いんだけど得意な系統が種族によって決まるんだ」
「得意な、系統……?」
「この世界には、魔物が存在して、それと戦う力“魔法”も存在しているんだ」
魔法。それは、ファンタジー世界には欠かせない非現実的な力、能力のことだ。ここに来て、とうとうその言葉を聞くことが出来たのだ。
「ヨゾラ、目が眩しいくらいにキラキラしているよ」
「気のせいじゃないか?」
シフォンは話を戻すようにわざとらしくゴホンと咳払いをする。
「話を戻すけど、この世界に存在する魔法には、種族によって得意な系統が決まるんだ。例えば、ヨゾラみたいな【ヒューマン・人間】なら、火、水、木の魔法を扱うのに長けているんだ」
どうやら人間でも魔法を使える世界設定のようだ。魔法の存在するこの世界に来たからには、是非とも魔法を使いたかった身だ。願ったり叶ったりだ。
「へぇ、面白いな。他にはどんなのがあるんだ?」
「【エルフ・森精種】なんかだと、治癒系の魔法に長けているね!冒険をする際なんかは、【エルフ・森精種】をメンバーに加えるのもおおすめだよ!」
「なるほどなるほど」
俺はシフォンのファンタジー要素溢れる説明に吸い込まれるように集中した。きっと今の俺の表情はとても嬉々としたものなのだろう。
「納得してもらえたところで今までのまとめでもしようか。この世界には、たくさんの種族のNPCとプレイヤー達が共に共存しながら生きているんだ」
「それが、この世界の住人か……」
「ここでさっきの質問に答えよう」
「さっきの質問……?」
何か質問しただろうか。全く持って記憶にない。
「自分でしておいて忘れちゃったのかい?」
「えっと、何質問したっけ……?」
シフォンは呆れたようにため息をつくと、
「君の記憶力にはガッカリだな。つい数分前にした質問の内容すら忘れちゃうんだからね」
「あのな、人間なら誰しも物忘れの一つや二つあるものなんだよ。プログラムで動くNPCのお前には分からないかもしれないけどよ」
「それさ!!」
「はぃ……?」
俺に小さなその手を向けながら、シフォンは大きく声を上げる。間の抜けた声を漏らす俺に、シフォンは
「だから、ヨゾラが僕にした質問の内容さ!」
「よく意味が分からないんだけど……」
「本当に鈍いな、ヨゾラは。もう、めんどくさいから答えを言っちゃうけど、ヨゾラはついさっき僕に、どうしてNPCなのにカンだけで考えが読み取れたのかを聞いたんだ」
「あ……」
言われてから思い出すのが俺だ。シフォンに鈍いと言われても言い返す言葉が無い。
「思い出したようだね。思い出したようだから、質問に答えさせてもらおう」
「お、おう!」
質問の内容を忘れていたことで気を悪くし、答えてくれないなんて自体にならなかったことに内心安堵する。ゴクリと息を飲みながらシフォンの次なる言葉を待つ。
「この世界の僕達NPCには、感情があるんだ」
「感情が……ある……?」
それはどういった意味だろうか。プログラムでゲームの補助を仕事とするNPCに、感情があるとシフォンは言ったのだ。
「文字通りの意味さ。僕や、他のNPCにも感情が存在するんだ」
「えっと、よく理解できないんだけど……」
「まあ、続きは“はじまりの街”ででも話そうか!」
見てご覧と促すようにシフォンは視線を向ける。俺はその視線の先を見つめる。すると、見渡す限り広がっていた大草原にいつしか異変が生じていたことに気づく。
「あれは……」
異変の正体は、大自然の文字には似合わない人工的な石造りの塀だった。
ふわふわと宙に浮きながらそんな言葉を俺に向けるのは、この世界での初の交流相手シフォンだ。一人称が僕だから性別は多分男だと思う……。
「そのチュートリアルなんだけど、結局のところ何をするんだ?」
「ヨゾラ、街に行かないかい?」
「まち……?」
俺の質問にシフォンから帰ってきた言葉は、質問の答えには程遠く、かけ離れたものだった。
「ここから歩いて十分くらいの距離に、“はじまりの街”がある。そこに今から行かないかい?」
シフォンとの初交流から場所は移らず、二人……?一人と一匹は最初の草原から少しも移動していなかった。
「いや、行くのはいいんだけど、チュートリアル始めるんじゃ……」
「チュートリアルについての説明は街に行きながらにでもするよ!それじゃあ、ダメかい?」
「ダメ、ではないけど……」
チュートリアルを始めるとシフォンの方から言い出したばかりだというのに、この方向転換は一体何なのだろうか。
「よし、それなら行こう。僕が案内するから着いてきてくれ!」
そう言って先を進み始めるシフォン。その後を追うようにして俺も歩み出す。
草原に広がる草を踏みしめる感触、風が運ぶ大自然の匂い、それらはやはりリアル(現実)と区別がつかないほどに完璧だった。
「で、行きながらチュートリアルの説明をしてくれるんだろ?」
無言で先を進むシフォンに背後から声をかける。その声に反応する形でシフォンがくびれの無い体型ごと振り向く。
「そうだね、チュートリアルの説明を始めようか」
「おう!」
威勢よく返事をすると、シフォンは微笑みをこぼす。
「まずは、この世界の最終的な目的について話そうか」
The last of the worldの世界の最終的な目的。それはつまり、ゲームクリアを意味していると受け取っていいのだろうか。
ゲームクリアと言われて頭に浮かぶ情景は、魔王を倒すこと、囚われの身のお姫様を助けること、迷宮に眠りし大秘宝を探し出すことなどといったところだろうか。
「色々考えているようだけど、ヨゾラの想像していることは恐らく、全てはずれているだろう」
「なっ……まだ何も言ってないのに何でそんなことが言えんだよ……」
「言わなくても分かるさ、魔王を倒すこと、囚われの身のお姫様を助けること、迷宮に眠りし大秘宝を探し出すこと、君の考えているのはこんなものだろ?」
「……っ!?」
図星だった。図星だったからこそ、ただ黙り込むことしか出来なかった。そんな俺の心情を読んだとばかりにシフォンはどこか勝ち誇ったような笑を浮かべる。
「どうやら図星のようだね」
「最近のNPCには、心を見透かす機能でも備わってんのかよ……」
「そんな機能あるわけないじゃないか。面白いことを言うね、ヨゾラは」
「じゃあ、どうして分かったんだよ?まさか、カンとか言うんじゃないだろうな……」
カン以外に考えられる可能性があるとすれば魔法の存在だ。まだこの世界に来たばかりで、魔法が存在しているのかどうかすらわかっていない状況だが、アカウント作成の際に職業選択で俺は【魔法剣士】を選択している。【魔法剣士】という職業が存在するくらいだから、当然魔法が存在していてもおかしくは無い。
シフォンは心を見透かす何らかの魔法を使用した。それがカン以外に導き出された可能性だ。
「あ、あはは……」
と、そんな根拠の無い可能性に行き着くと、シフォンが困ったように苦笑していることに気づく。
「なんで苦笑いなんだよ」
「いや、ごめんよ。どうして僕が君の心情を読み取れたか……だよね。カンさ、カンで言ったのさ」
「は……?NPCにそんなこと出来るのかよ……?」
プレイヤーを、ゲームのストーリーにうまく誘導するための存在であるNPC。その行動は全てプログラムで動いていることが一般的だ。カンなどというふざけた回答が返ってきても納得するのに困る。
「そこも含めて、説明しよう」
そう言って、話を戻すように小さな手をパンパンと叩く。肉球がぶつかり合い、その音は少しも響かない。
「まず最初の話に戻るけど、この世界の最終的な目的についてだ。まあ、ヨゾラの思ってたようにゲームクリアだと思ってくれれば分かりやすいかもね!」
「で、そのゲームクリアはどうすればゲームクリアになるんだよ」
「存在しないんだ」
「は……?存在しないって、何がだよ……?」
シフォンの言った一言にどんな意味が込められていたのか、俺には理解ができなかった。唖然とする態度の中、シフォンは続けて
「この世界に、ゲームクリアは存在しないんだ」
飄々とした調子で言った、シフォンその言葉が一瞬理解出来なかった。
「ゲームクリアが存在しないって……どういう事だよ……?」
「言葉通りの意味さ、この世界にゲームクリアなんてものは存在しない」
ゲームクリアが存在しない。それはつまり、この世界には終わりが存在しないということだ。終わりが存在しないゲームなんて、存在していいものなのだろうか。
「どうやら今の言葉だけでは納得がいっていないようだね。無理は無い。サービス開始の今日、このゲームにログインした全プレイヤーが同じ説明を受けて、同じく納得もいっていないだろう」
腑に落ちない俺の表情を読み取ってか、シフォンは当然だとばかりに淡々と話す。
「結局のところ、なんでゲームクリアが存在しないんだよ……それじゃあ、ゲームとして機能しないんじゃ……」
「ヨゾラはゲームクリアだけが世界の面白さだと思うのかい?」
「何が言いたいんだよ……?」
「簡単さ、この世界にゲームクリアは存在しない。それは、裏を返せば自分たちで作ってしまえばいい。そういう考えにはならないかい?」
「あ……」
確かにシフォンの言う通りだ。終わりがないなら自分で作ってしまえばいいんだ。どうしてそんな簡単なことに気づけなかったのだろうか。
「この世界は無限大に広がっている。プレイヤー一人ひとりが、自分だけの目標を達成する。それが本当のゲームクリアさ。それじゃあ、納得いかないかい?」
無限大に広がるこの仮想世界では、どんなことだって出来る。どんなことだって実現可能だ。そんな仮想世界で、自分だけのゲームクリアを目指す。それは……
「最高に楽しそうじゃねぇか!」
「納得してもらえたようで僕も嬉しいよ!」
声を上げる俺を微笑ましく見つめるシフォン。その瞳は、とても仮想世界で作られた人工的なものには見えない。
「納得してもらえたところで話を続けようか」
そう言ってパンパンと手を叩きながら話の続きを促そうと空気をリセットさせるシフォン。
「この世界の最終的な目的、即ち、ゲームクリアについては分かってもらえたようだ。次の話すのは、この世界に住む住人達についてさ」
「この世界の住人って、NPCのことか?」
「まあ、そうなんだけど最初は“種族”について知ってもらいたいな!」
「種族……?」
現実世界では聞きなれない単語に、語尾が釣り上がり疑問符が浮かぶ。
「ヨゾラも新規アカウント作成時に、種族の設定を行っただろ?ヨゾラは数ある種族の中から【ヒューマン・人間】を選択したようだね」
「あ、そう言えばそんなのしたな……」
「思い出したようだね!そこで、今から説明するのはその種族のことについてなんだ」
「何となくで【ヒューマン・人間】選択したんだけど、もしかして種族によって強さが違うとかそんなこと無いよな……?」
種族選択の際、画面に表示されていたものには【ヒューマン・人間】の他には、【エルフ・森精種】、【フェアリー・妖精族】などの精霊系の種族から、【リザードマン・亜人】、【ハーフエルフ】などの人間とそれ以外の者の血が混ざった半血系の種族と様々だった。
「ヨゾラは良い質問をするね!ヨゾラの言うように、種族によって強さが変わるか、だよね……先に答えを言っちゃうと微妙な誤差はあるけど、大々的には大して違いは無いんだ」
「なんだ、よかった……いきなり魔王と戦えるレベルの種族とかあったら迷わずそれにしてたからな!」
「仮に種族によって強さに大きな誤差があったとしても、いきなりラスボスと並ぶようなものは存在しないよ。あと、この世界に魔王はいないから覚えておくといいよ」
「あ、この世界魔王とかいないんだ……」
シフォンの最もなツッコミにただそれだけ言って押し黙る。シフォンの言うとおり、いきなりラスボスと並ぶ強さを誇る種族が存在しようものなら、それはもはやチートだ。
「まあ、強さに大きな誤差は無いんだけど得意な系統が種族によって決まるんだ」
「得意な、系統……?」
「この世界には、魔物が存在して、それと戦う力“魔法”も存在しているんだ」
魔法。それは、ファンタジー世界には欠かせない非現実的な力、能力のことだ。ここに来て、とうとうその言葉を聞くことが出来たのだ。
「ヨゾラ、目が眩しいくらいにキラキラしているよ」
「気のせいじゃないか?」
シフォンは話を戻すようにわざとらしくゴホンと咳払いをする。
「話を戻すけど、この世界に存在する魔法には、種族によって得意な系統が決まるんだ。例えば、ヨゾラみたいな【ヒューマン・人間】なら、火、水、木の魔法を扱うのに長けているんだ」
どうやら人間でも魔法を使える世界設定のようだ。魔法の存在するこの世界に来たからには、是非とも魔法を使いたかった身だ。願ったり叶ったりだ。
「へぇ、面白いな。他にはどんなのがあるんだ?」
「【エルフ・森精種】なんかだと、治癒系の魔法に長けているね!冒険をする際なんかは、【エルフ・森精種】をメンバーに加えるのもおおすめだよ!」
「なるほどなるほど」
俺はシフォンのファンタジー要素溢れる説明に吸い込まれるように集中した。きっと今の俺の表情はとても嬉々としたものなのだろう。
「納得してもらえたところで今までのまとめでもしようか。この世界には、たくさんの種族のNPCとプレイヤー達が共に共存しながら生きているんだ」
「それが、この世界の住人か……」
「ここでさっきの質問に答えよう」
「さっきの質問……?」
何か質問しただろうか。全く持って記憶にない。
「自分でしておいて忘れちゃったのかい?」
「えっと、何質問したっけ……?」
シフォンは呆れたようにため息をつくと、
「君の記憶力にはガッカリだな。つい数分前にした質問の内容すら忘れちゃうんだからね」
「あのな、人間なら誰しも物忘れの一つや二つあるものなんだよ。プログラムで動くNPCのお前には分からないかもしれないけどよ」
「それさ!!」
「はぃ……?」
俺に小さなその手を向けながら、シフォンは大きく声を上げる。間の抜けた声を漏らす俺に、シフォンは
「だから、ヨゾラが僕にした質問の内容さ!」
「よく意味が分からないんだけど……」
「本当に鈍いな、ヨゾラは。もう、めんどくさいから答えを言っちゃうけど、ヨゾラはついさっき僕に、どうしてNPCなのにカンだけで考えが読み取れたのかを聞いたんだ」
「あ……」
言われてから思い出すのが俺だ。シフォンに鈍いと言われても言い返す言葉が無い。
「思い出したようだね。思い出したようだから、質問に答えさせてもらおう」
「お、おう!」
質問の内容を忘れていたことで気を悪くし、答えてくれないなんて自体にならなかったことに内心安堵する。ゴクリと息を飲みながらシフォンの次なる言葉を待つ。
「この世界の僕達NPCには、感情があるんだ」
「感情が……ある……?」
それはどういった意味だろうか。プログラムでゲームの補助を仕事とするNPCに、感情があるとシフォンは言ったのだ。
「文字通りの意味さ。僕や、他のNPCにも感情が存在するんだ」
「えっと、よく理解できないんだけど……」
「まあ、続きは“はじまりの街”ででも話そうか!」
見てご覧と促すようにシフォンは視線を向ける。俺はその視線の先を見つめる。すると、見渡す限り広がっていた大草原にいつしか異変が生じていたことに気づく。
「あれは……」
異変の正体は、大自然の文字には似合わない人工的な石造りの塀だった。
