「……はい、そこまで」
教官の眠たそうな声が聞こえたと同時に全員が一斉に手を止める。
僕は机に倒れこんだ。
「…セイト?」
「え?ああ……ごめん」
顔を上げると、そこにいたのはアルス君だった。
「その様子だとかなり苦戦したみたいだけど」
「正解。」
「あれだけ勉強してたのにな…お前」
「…苦手科目は無理だったよ……」
「それは俺も同じ。」
その日は期末試験の最終日だった。
僕は勉強していたのに、問題が難しすぎてほとんど勘で解いてしまった。
得意科目は別だったけれども。
「俺ももう疲れたな…帰ったらすぐに寝そう」
「そういえばアルス君の家って、どこにあるの?」
「あの商店街の通りの裏側」
そのまま彼は家のある方向を指さす。
「あのあたり、地価が高いって聞いたことあるんだけど」
「古い家だったからなんとかなった」
彼と共に行動するようになってから、かれこれ2週間が経っていた。
私的な話ぐらいはするようにはなったものの、『あの質問』はまだしていない。
……そろそろ聞いてみよう。
僕が何者であるのかを。
期末試験の翌日は休日だった。僕はちょうど食べ物が少なくなってきていたので買い出しに出掛けることにした。
僕が行ったところは、彼の家の裏側の商店街だ。
「おお、アンタ!また来たのかい。アンタ細いんだからもっと食いな!」
押しの強いパン屋のおかみさんに大量にパンを渡された。
それで一回帰る羽目になったけれども、ありがたいことには変わりなかった。
いろいろな店からまけてもらった。そのおかげで予想していた金額よりは遥かに少ない金額で済ませれた。
最後の買い物がようやく終わり、少し疲れていたところに映ったベンチに無意識に座る。
買い出しを始めた頃には低い位置だった太陽が、もうほぼ真上に動こうとしている。
その青く透き通った空に見とれていたとき、異変が起こった。
太陽が段々と隠れていき、暗くなる。
つい先程まで青色だった空は灰色に変わった。
「雨だぞ!」
ぽたり。
その声をはじめとして、空から雫が落ちてくる。
ぽたり、ぽつ、ぽつ………
その雫の数は増えていった。
商店街の人々は外にあった椅子やテーブルを片付け始める。
僕も早く帰らないと。
荷物をすべてまとめて立ち上がる。
ここから僕の家までは少し遠い。
辿り着けなかったらどこかで雨宿りさせてもらおう。
商店街の中腹まで走っていったところで、雨が本降りになり始める。
他にも同じように走っている人がちらほらいる。
運動が苦手な僕は、すぐに息が切れ始めた。
商店街を抜けたところで、丁度よく屋根がせり出しているところを見つける。
そこに僕は滑り込んだ。
雨でびしょびしょに濡れて乱れた髪を直しているときだった。
霞んだ視界の向こうに人影が見えた。
傘も差さずにフードを被って、体は濡れていた。
ここに入ったら大丈夫なことを伝えようとする。
でも、すぐに僕の動きは止まった。
僕の視線の先にいたのは、彼。………アルス君だった。
でもそれだけじゃ普通驚かない。
僕が驚いたのは彼の見ていた方向だった。
彼は、【迷いの森】の方向を見ていた。
悪魔が住むとされる恐ろしい森。
そこに入って誰一人として帰ってきた者はいないという森。
そこを見ていた彼の【気配】は、おかしいぐらいの狂気と怨念で満たされていた。
……どうして彼がそんな場所を?
僕はしばらく唖然とした状態で彼を見ていた。そのうち彼は足の方向を変え、ふらふらと雨の向こうに消えていった。
しばらく僕が呆然とした状態でいると、偶然そこに馬車が来た。人のいい運転手に乗せてもらって僕は家に帰ることができた。
その中では他愛ない話を他の乗客として、あの光景を忘れるような気にさえなった。
でも家に帰ると同時に一気に震えが走る。
彼が怖かったんじゃない。
彼に取り巻いていた狂気と怨念が怖かったんだ。
教官の眠たそうな声が聞こえたと同時に全員が一斉に手を止める。
僕は机に倒れこんだ。
「…セイト?」
「え?ああ……ごめん」
顔を上げると、そこにいたのはアルス君だった。
「その様子だとかなり苦戦したみたいだけど」
「正解。」
「あれだけ勉強してたのにな…お前」
「…苦手科目は無理だったよ……」
「それは俺も同じ。」
その日は期末試験の最終日だった。
僕は勉強していたのに、問題が難しすぎてほとんど勘で解いてしまった。
得意科目は別だったけれども。
「俺ももう疲れたな…帰ったらすぐに寝そう」
「そういえばアルス君の家って、どこにあるの?」
「あの商店街の通りの裏側」
そのまま彼は家のある方向を指さす。
「あのあたり、地価が高いって聞いたことあるんだけど」
「古い家だったからなんとかなった」
彼と共に行動するようになってから、かれこれ2週間が経っていた。
私的な話ぐらいはするようにはなったものの、『あの質問』はまだしていない。
……そろそろ聞いてみよう。
僕が何者であるのかを。
期末試験の翌日は休日だった。僕はちょうど食べ物が少なくなってきていたので買い出しに出掛けることにした。
僕が行ったところは、彼の家の裏側の商店街だ。
「おお、アンタ!また来たのかい。アンタ細いんだからもっと食いな!」
押しの強いパン屋のおかみさんに大量にパンを渡された。
それで一回帰る羽目になったけれども、ありがたいことには変わりなかった。
いろいろな店からまけてもらった。そのおかげで予想していた金額よりは遥かに少ない金額で済ませれた。
最後の買い物がようやく終わり、少し疲れていたところに映ったベンチに無意識に座る。
買い出しを始めた頃には低い位置だった太陽が、もうほぼ真上に動こうとしている。
その青く透き通った空に見とれていたとき、異変が起こった。
太陽が段々と隠れていき、暗くなる。
つい先程まで青色だった空は灰色に変わった。
「雨だぞ!」
ぽたり。
その声をはじめとして、空から雫が落ちてくる。
ぽたり、ぽつ、ぽつ………
その雫の数は増えていった。
商店街の人々は外にあった椅子やテーブルを片付け始める。
僕も早く帰らないと。
荷物をすべてまとめて立ち上がる。
ここから僕の家までは少し遠い。
辿り着けなかったらどこかで雨宿りさせてもらおう。
商店街の中腹まで走っていったところで、雨が本降りになり始める。
他にも同じように走っている人がちらほらいる。
運動が苦手な僕は、すぐに息が切れ始めた。
商店街を抜けたところで、丁度よく屋根がせり出しているところを見つける。
そこに僕は滑り込んだ。
雨でびしょびしょに濡れて乱れた髪を直しているときだった。
霞んだ視界の向こうに人影が見えた。
傘も差さずにフードを被って、体は濡れていた。
ここに入ったら大丈夫なことを伝えようとする。
でも、すぐに僕の動きは止まった。
僕の視線の先にいたのは、彼。………アルス君だった。
でもそれだけじゃ普通驚かない。
僕が驚いたのは彼の見ていた方向だった。
彼は、【迷いの森】の方向を見ていた。
悪魔が住むとされる恐ろしい森。
そこに入って誰一人として帰ってきた者はいないという森。
そこを見ていた彼の【気配】は、おかしいぐらいの狂気と怨念で満たされていた。
……どうして彼がそんな場所を?
僕はしばらく唖然とした状態で彼を見ていた。そのうち彼は足の方向を変え、ふらふらと雨の向こうに消えていった。
しばらく僕が呆然とした状態でいると、偶然そこに馬車が来た。人のいい運転手に乗せてもらって僕は家に帰ることができた。
その中では他愛ない話を他の乗客として、あの光景を忘れるような気にさえなった。
でも家に帰ると同時に一気に震えが走る。
彼が怖かったんじゃない。
彼に取り巻いていた狂気と怨念が怖かったんだ。
