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うそつき。


なんの取り柄もない。友達も恋人もいない。
人を信じることも愛することも出来ない。


全ては、あの女が私を捨てたからだ。




こんな私は果たして、生きている意味があるのだろうか。


夏特有の暑さがすっかりなくなり、少し肌寒く感じるようになった今日。

季節は、早送りをしているかのように過ぎていく毎日。


今の季節の放課後にこの場所に来る人は、私以外に誰ひとりいない。

この場所、というのは廃ビルの屋上のことで。

私は授業が終わったらすぐにここに来る。
意識はしてないものの、気づけばここに来ている。そしてそれが、いつの間にか習慣のようになっていた。


ここに来て何をするのか、と聞かれたらきっと、答えられないだろう。

だって、なんの意味もないのだから。

まあ、しいて言うなら………


柵を超え、ギリギリ落ちないところに立つ。
今、誰かに少しでも背中を押されたら確実に落ちるだろう、というところ。


ここにいると、嫌でも「死」を意識しなければならない。

普段、生きているのか死んでいるのかわからない日々を過ごしている私だが、ここに来ると「ああ、生きているんだ」と実感できる。


これがここに来る理由になっているかは不明だが、今の私にはそうとしか答えられない。


生きていると実感したから何だって話だけど。



「あなた死のうとか考えちゃダメよ?」

「え?」


振り返ると、見る限り30代前半ぐらいの女の人が立っていた。

珍しい。ここに来る人なんて今までいなかった。

「あなた何でこんなところにいるの?」

それはこっちが聞きたいくらいだ。

「あなたこそ。なぜここに?」

「うーん、特に理由はないの。気づいたらここに、みたいな」

「奇遇ですね。私も同じです」

こんなにしっかりと会話をしたのはいつぶりだろう。

「死のうとしちゃダメよ?」

「私が死んでも、誰も悲しみませんよ」

大人はみんな言う。

命は平等だ

と。

でも、そんなのはただの綺麗事に過ぎないと思う。

もし、今私が死ぬのとトップアイドルが死ぬの。
世間に与える影響も、経済に与える影響も誰がどう見ても結果は明白だろう。

「あなた家族は?」

もう一度柵を超え、安全なところまで移動しながら「私に家族なんていませんよ。生まれたときからずっと」と言った。

キョトンとする彼女。

「私、生まれたとき母親に捨てられたんです。父親の話もいっさい聞いたことないのでいないんだと思います」

今まで誰にも話したことがなかったこの話。
なぜ、今は話しているのだろう。しかも初対面の人に。

いや、初対面の人だからこそ話せるのかもしれない。

「あなたはお母さんのこと嫌い?」

「恨んではいます。だって、捨てられるのが怖くて友達もつくれないんですよ。全て母親のせいです。まあ、1人には慣れましたが」

でも…

「なんでですかね。嫌いって思ったことは一度もないんです」

恨んでいるはずなのに嫌いになれない。

母親だからだろうか。

……まだ、母親を信じている部分があるのかもしれない。


「あなた、脆くて今にも壊れそう。そんな風にさせたお母さんはダメな人ね」

『脆くて今にも壊れそう』そんな風に言われたのは初めてだった。

みんな1人で生きる私を見て口を揃えてこう言うのだ。

『強いひとだね』

私は強くなんかない。
むしろ、水風船のように、自分を守るものがなくなったら一気に溢れ、収集がつかなくなってしまう。

今私は、ひとりでいる、という風船で、寂しさや脆い心という水を包んでいるのだろう。


この人のことばは、私の完全に乾燥しきった心を潤わせていく。

ああ、この人には心を許してしまいそうだ。


「そうなんですかね」



「あ、わたしそろそろ行かなきゃいけない!」

このとき私はもう彼女と永遠に会えないような気がした。

「ま、待って!……ください」

気づいた時にはそう口走っていた。

「ん?なに?」

「文通…しませんか?」

デジタル化が進んでいるこのご時世。

メールやSNSではなく、手紙という方法でつながりたいと思った。

彼女はふふッと微笑み「面白そうね」とつぶやいた。

…どこかで、この顔見たことある。

気のせい……か。


初めてだった。こんな風にまた話したいと思うのも、話しを聞きたいと思うのも。


自分の住所を気軽に教えられない物騒な今だけど、彼女にだったら教えてもいいと思った。


住所を教え合い、彼女は去っていった。

さっきまで「死」で埋め尽くされていた頭の中。
いつの間にか、スッと消えていった。

<2016/12/14 02:47 かほまる>消しゴム
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