もしもあの日に
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やっと完成した。
目の前にあるのは、何の変哲もない腕時計。しかしそれは、時を刻んではいない。ただ静かにそこにあるだけだ。
これを作るのに何十年もたってしまった。
もうほとんど意味もないけど、一瞬だけでもあの日に戻れるのなら、少しだけでも過去を変えられるなら。
きっとずっと胸の中にあった塊は、消えてなくなってくれるのだろう。
検証実験なんてしなくてもいい。
私は腕時計を自分の手首に着けた。
ひんやりとした感触が心も冷やしてくれた気がした。
時計の針を戻す。
だんだんと視界が歪んでいく。
少し気分が悪くなって目を閉じてしまう。
あの日に滞在できるのはせいぜい1分程度。
失敗は許されない。
けど、それで十分。
私がしたいのは、ただ扉を閉めるだけなのだから。
目を開けると、あの日だった。
いや、本当はそんな確信はなかったけれど、確かめる余裕もなかったのだ。
突然現れた人間に驚いたように吠える犬達がいた。
抱きしめたかった。
でも、先にやることを終えてしまわねば。
残り1分。
私は急いで相変わらず足の踏み場もない部屋に向かい、適当な紙とボールペンを用意した。書くことはただ一つ「扉は閉める」
きっと意味はない。だって今からそれが何のためなのか分からなくなるはずだったから。
残り40秒。
紙にセロハンテープをつけてお風呂場に向かった。
誰もいない。静かに扉を閉めた。
そして、扉に紙を貼った。
残り30秒。
私がやるべきことは終わった。
安堵感からぼーっとその場にたたずんでしまう。
この日以来私は抜け殻のようだった。
まだ一緒にいれたはずなのに、私達の不注意でいなくなってしまった。
忙しさで心を紛らわし、考えないようにした。
それでも、いつも夢に出てくるのは、あの子が本当はまだ生きていて「なんだ、大丈夫だったんだね。」って笑いあう光景。
現実が夢で、夢が現実ならよかったのに。
L ineの「本当です。」の言葉。
なぜかそれだけチェックマークが入らず、消すことができなかった。
後で試したら普通に消せたが、あえて今も消していない。
あの時消えなかったのは、逃げるなということのような感じがしたから。
残り20秒
私の足元に3匹が寄ってきた。
この子たちはとても人懐っこいのだ。
とりわけ、一番若い子は人間が大好きだった。
必ず誰かがいる部屋にいて、いつも私の足に体を摺り寄せてきた。
今もそう。
ほんとに、ごめんね。
1匹1匹優しくなでた。
あぁ、手が三本あったらよかったのに。
こんなことを思うのは何年ぶりだろう。
残り10秒
9
8
7
6
5
4
3
2
1
元の部屋に戻っていた。
あの日以降のあの子の記憶はない。
特に何も変わっていない。
なんとなく、そんな気がしていた。
急に経験したことのない記憶があふれ出すのではないか、なんて期待をしていなかったというのが正直なところで、ホントは心の片隅で諦めが燻っていたんだと思う。
しかし、きっとほかの世界のあの子は、1番目の子と2番目の子同様きちんと最後まで生きられたのだろう。
そう考えたかった。
涙が流れる。
「本当です。」
そのメッセージを削除する。
時計をたたき割る。
私はゆっくりと目を開けた。
目の前にあるのは、何の変哲もない腕時計。しかしそれは、時を刻んではいない。ただ静かにそこにあるだけだ。
これを作るのに何十年もたってしまった。
もうほとんど意味もないけど、一瞬だけでもあの日に戻れるのなら、少しだけでも過去を変えられるなら。
きっとずっと胸の中にあった塊は、消えてなくなってくれるのだろう。
検証実験なんてしなくてもいい。
私は腕時計を自分の手首に着けた。
ひんやりとした感触が心も冷やしてくれた気がした。
時計の針を戻す。
だんだんと視界が歪んでいく。
少し気分が悪くなって目を閉じてしまう。
あの日に滞在できるのはせいぜい1分程度。
失敗は許されない。
けど、それで十分。
私がしたいのは、ただ扉を閉めるだけなのだから。
目を開けると、あの日だった。
いや、本当はそんな確信はなかったけれど、確かめる余裕もなかったのだ。
突然現れた人間に驚いたように吠える犬達がいた。
抱きしめたかった。
でも、先にやることを終えてしまわねば。
残り1分。
私は急いで相変わらず足の踏み場もない部屋に向かい、適当な紙とボールペンを用意した。書くことはただ一つ「扉は閉める」
きっと意味はない。だって今からそれが何のためなのか分からなくなるはずだったから。
残り40秒。
紙にセロハンテープをつけてお風呂場に向かった。
誰もいない。静かに扉を閉めた。
そして、扉に紙を貼った。
残り30秒。
私がやるべきことは終わった。
安堵感からぼーっとその場にたたずんでしまう。
この日以来私は抜け殻のようだった。
まだ一緒にいれたはずなのに、私達の不注意でいなくなってしまった。
忙しさで心を紛らわし、考えないようにした。
それでも、いつも夢に出てくるのは、あの子が本当はまだ生きていて「なんだ、大丈夫だったんだね。」って笑いあう光景。
現実が夢で、夢が現実ならよかったのに。
L ineの「本当です。」の言葉。
なぜかそれだけチェックマークが入らず、消すことができなかった。
後で試したら普通に消せたが、あえて今も消していない。
あの時消えなかったのは、逃げるなということのような感じがしたから。
残り20秒
私の足元に3匹が寄ってきた。
この子たちはとても人懐っこいのだ。
とりわけ、一番若い子は人間が大好きだった。
必ず誰かがいる部屋にいて、いつも私の足に体を摺り寄せてきた。
今もそう。
ほんとに、ごめんね。
1匹1匹優しくなでた。
あぁ、手が三本あったらよかったのに。
こんなことを思うのは何年ぶりだろう。
残り10秒
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元の部屋に戻っていた。
あの日以降のあの子の記憶はない。
特に何も変わっていない。
なんとなく、そんな気がしていた。
急に経験したことのない記憶があふれ出すのではないか、なんて期待をしていなかったというのが正直なところで、ホントは心の片隅で諦めが燻っていたんだと思う。
しかし、きっとほかの世界のあの子は、1番目の子と2番目の子同様きちんと最後まで生きられたのだろう。
そう考えたかった。
涙が流れる。
「本当です。」
そのメッセージを削除する。
時計をたたき割る。
私はゆっくりと目を開けた。
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