レクとアルテはレアリテの地下通路を進んでいた。
石畳の階段が幾つも交差する浮き世離れした空間が気に入っていてレクはよく一人でこの場所を訪れる。なにしろ地下通路は巧く進むことさえ出来れば城下の大庭園と直結している。人が少なく楽に進めるので、レクはこの道を選んだのだ。
「レク、この道は間違ってないよな?」
「多分ね、鉄骨水路まで出たら大丈夫だよ」
大きな溜め息が後ろから聞こえた。
アルテはレクの行き当たりばったりに何時も肝を冷やしている。アルテはただ過保護なだけだと、レクは取り合わないが自分でもこの行き当たりばったりは所々恐ろしい穴が有ると分かっている。
例えば、地下通路でアルテと迷った先がスクラップ通りだったなら……。
そう考えると、この道を選んだのは間違いだったのかも知れない。
「レク?」
立ち止まったレクに驚き、アルテは声を掛ける。
「……見えたよ。鉄骨水路」
「あ……あぁ」
鉄骨水路は小さな水路の上に横幅十五センチ程の鉄骨が橋のように架かっている。主に通学路として扱われているのだがこの道に関して良い噂は耳にしないので子供達は鉄骨水路を避け遠回りで通学しているらしい。
「何してるの? 渡ろ」
「え……あぁ、そうだが……しかし」
何を渋っているのかアルテは動こうとしない。下を向いて何かを呟いているだけだ。
「もしかして、怖いの?」
「いや、そんなことは……」
「ほらほら、大丈夫だから、一緒に行こう」
赤黒く変色した鉄骨に片足を掛け、アルテの手を握ったレクは無邪気そうに笑うと歩みを進める。
「ね、大丈夫だよ」
「本当だ」
鉄骨を渡りきるとコンクリートで固まった階段が見え、それを進んだ先から人々の声が聞こえる。皆、新たな住人の到着を心待にしているようだ。
「アルテの高所恐怖症って何処から来たんだろうねぇ? 僕と仕組みは何等変わらない筈なのに。しかもさっきの、そこまで高くなかったじゃない」
そこまで言って、アルテが少し傷付いているということに気付いたレクは小さな声で言った。
「ごめん」
「いいよ、レクは間違ってない。ほら着いたよ。前を見て」
レクが前を向くと、子供が数人前を走り去り賑やかな場所に出た。
近所のおじさんは酒を掲げて何かを叫び、中央では楽団の合奏に合わせて幾人もがダンスを踊っている。花を配る少女、新聞記者、誰も彼も着飾って笑っている。
すると突如大きなファンファーレが鳴り響き、頭上に大きく透明な立方体が展開される。
もしかすると、その箱の中に新たな家族が居るのかも知れない、そう思うとアルテは沸き上がる興奮を抑えることが出来なかった。
