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浅葱色の華
- 第九話 私は誰? -




少しだけ肌寒くなってきた今日この頃。
今日の炊事当番は八番組で、私もそのお手伝いにきていた。
「いつもすみません。」
本当に申し訳なさそうに言ってくる藤堂さんに、
「私に出来るのはこれだけですから。」
と微笑む。
その間も私たちの手は野菜を刻んでおり、やることがほとんど無くなった隊士さんたちはぽかんとこちらを見ていた。
「あの…組長、俺たちは何をすれば…」
「あ、もう終わりましたか?じゃあ少しだけ待っててくださいね。」
…大抵この「少し」は「最後まで」だったりする。
「藤堂さんって、何でもご自分でやられていますよね。器用だなあ…って、尊敬しちゃいます。」
「あはは、総司や左之さんたちに任せると洗濯物も何もかもごちゃごちゃになりますからねぇ。」
「あー…」
確かに、と苦笑した。
何だろう、あの人たちは端っこ合わせようっていう考え方はないのかもしれない。
とりあえず積んどけ、みたいな。
かろうじて畳まれていると判断できる着物か積まれているのを見れば、自分でやりたくなるのもわかるような気もする。
「でも最近は桃華ちゃんがやってくれるので助かってますよ。もうほんっと、桃華ちゃんが居なかったらどうなっていたことか…。
あ、そうだ。僕のこと、藤堂さんじゃなくて平助って呼んでくださいよ。藤堂さんって、何か距離が遠くて嫌なんです。」
「えっ?」
ありがとうございますと言うべきか、ごめんなさいと言うべきか戸惑う。
オロオロとしている私に、藤堂さんはにっこり笑いかけてきた。
「ほら、平助って。」
「…へ、平助……さん…」
「えー。まあ、前よりは良いですけど。」
不満げにほおを膨らませながら鍋をかき混ぜる藤……平助さんは、それでも嬉しそうに笑ってくれる。
何だかほっとして、一つ小さな息を吐いた。
「じゃ、そろそろ出来そうですね。
さあて…」
言いながら平助さんはチラリと後ろを見る。
「あとは任せましたよ。」
その言葉に、隊士さんたちはパアッと顔を輝かせた。
「はい!」



「そこ!隙がありすぎます。もう少し動きを意識して。」
「は、はい!」
朝餉が終わり、八番組の珍しい昼巡察も終わり、昼餉も終わったあと。
私は平助さんに稽古をつけてもらっていた。
「甘い甘い!」
「やぁっ!」
「ほら、ここですよ?」
「…たあっ!」
「おお、良い感じですねぇ。」
ぜい、ぜいと荒い息を吐きながら平助さんを見上げる。
さすがは組長と言うべきか、平助さんはちっとも汗をかかずににっこにこ。
「そろそろ休憩にしますか?結構時間も経ってますし…」
そうは言うけれどまだ四半刻も経っているか微妙なところだ。
「まだ、やります…!」
私が言うと、平助さんは少し驚いたように目を見張った。
その後、ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれる。
「…桃華(ももか)は偉いね。」
「………へっ……?」
「…!?」
束の間の沈黙。
それを破ったのは、外から聞こえてきた鳥の鳴き声だった。
特に意味はない。
「…え?僕?今?え?…桃華(とうか)ちゃんのことを桃華(ももか)って言って…?あれ?僕に兄妹なんて……え?知り合いにもそんな名前の子はいないし……たぶん……あれ?」
平助さんも完全に無自覚だったようで、疑問ばかりの台詞になっている。
「すみません、何でこんなこと言ったんだろう…」
「あ、いえ!大丈夫です!」
確か、平助さんは小さい頃の記憶があまり無いって言っていたよね。
何かあったのかな?
…でも、私もそんなに覚えていないから普通なのかも。
「平助さん、少し休んだ方が良いんじゃないですか?最近あまり食べていないし…」
「大丈夫ですよ。」
「ダメです!!」
不安になってつい語気を荒げる。
平助さんは、少し驚いた顔をしてから、ふっと表情を和らげた。
「じゃあ、お言葉に甘えて休もうかな。
夕餉の支度の時間になったら起こしてもらえます?今日、左之さんとこが夕餉当番なので…」
「……あ、はい…」
原田さんには失礼だけど、これは平助さんがいないと大変。
私には手に負えないです…。



何とか無事に出来上がった夕餉を食べ終え、私は自室でぼんやりと天井を見上げる。
『桃華は偉いね。』
平助さんの、言葉。
妙に頭の中で引っかかっていた。
あの優しい顔と、柔らかな声がどうしても懐かしく感じる。
私には兄弟なんていない、はず。名前だって違う。
…ならば、何故?
考えれば考えるほどわけがわからなくなってきた。
「うー…」
「何かお悩みですか、桃華様?」
「ひっ!?」
不意に廊下から聞こえてきた声に飛び上がる。
「や、八十治…驚いた…」
「も、申し訳ありません!!」
八十治はあたふたと部屋の前を行き来しているようだ。部屋に差し込む月光がちらちらと隠れる。
「ねぇ、八十治。」
「はい。」
「私って……誰?」
「…はい?」
はた、と八十治の動きが止まるのがわかった。
明らかに困惑して、こちらを向く。
「……桃華様は、桃華様です。主様のお嬢様、麻木桃華様ですよ。」
「……そう。」
そういうことじゃないのだけどな。
まあ、今のは私が悪かったか。
「…私って、本当にお父様の娘なのかな?」
「…?はい。少なくとも…そう言われております。」
不思議そうな声色の八十治。
「…桃華様、何か心配ごとでも?」
「………ううん、何でもないよ。八十治も早く寝てね、おやすみ!」
「…………お休みなさいませ。」
無理に話を断ち切ると、八十治は声に疑いを滲ませながらも下がってくれた。
八十治に言ったって、むしろ心配かけちゃうし……八十治のことだからあちらこちら調べ周りかねない。そんなことしたら八十治が倒れてしまう。
だから…今は内緒にしておこうっと。


サブタイトルに地味に時間がかかります(笑)。
<2017/03/16 22:39 水瀬 玲>消しゴム
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