「俺で良かったら話、聞くけど。どうかな?」
沖田さんの優しい笑み。
その笑顔に導かれるかのように、私は今日のことを少しずつ話し始めた。
「実はーー」
話し終えて、そっと沖田さんの方をうかがう。
沖田さんは少し驚いたようにこちらを見つめていた。
「……一ノ瀬が?」
「はい。」
へえ…なんて言いながら、沖田さんはそっと空を見上げる。
「意外、と言えば意外だけど…。わからなくもないかな。」
「え?」
わからなくもない?
きょとん、と首を傾げた私の髪の毛に、沖田さんは優しく触れる。
不意に吹いた柔らかい風が、その髪の毛を舞い上がらせた。
そこから出る音ですら聞こえるほど、辺りは静かだ。
「一ノ瀬は前から君が好きだったみたいだから。その思いが爆発しちゃったんじゃない?」
「爆発…?」
「そう。」
もちろん物理じゃないよ、と笑う沖田さん。
「それはわかってますけど…」
それで、本当にああなるのかな。
そんなに私が疑わしげな顔をしていたのか、沖田さんは小さく笑う。
「まあ、憶測みたいなものだけどね。
…で?桃華ちゃんは一ノ瀬のことが好きなの?」
あまりにも真っ直ぐ飛んできた質問に、カァッと顔が一気に赤くなった。
「な、何でそうなるんですか!?」
つい声を大きくしてしまい、沖田さんは口元に人差し指を当てる。
「しー。今は夜だよ?」
「す、すみません…」
しゅん…と大人しくなった私の頭をぽんぽんと撫でてから、沖田さんは囁くように言った。
「…でも、そんな反応するんじゃ……。
………わかってるんじゃない?」
「へっ!?」
「だから。」
「…すみません。」
我ながら学習しないなあ。
次は大きな声を出さないよう気をつけながら、軽く沖田さんを睨んでみる。
「そんな目しないでよ。かわいいんだからさ。」
「か、かわっ……!?
じゃなくて、私が凛君をす、すす………凛君に好意を持っていると言うのですか?」
さっきよりか幾分小さくなった声で問うと、当たり前のように頷かれた。
「違うの?」
「そ、そんなわけないじゃないですか……!口吸いだってただの事故……………じゃないですけど……たぶん………」
我ながら曖昧すぎる。
ちらっと沖田さんの方を向くと、沖田さんは酷く驚いたような…土方さんが満面の笑みを浮かべていたときの反応とほぼ同じ顔をしていた。
「せ、接吻までしたの……!?最近の若い子はすごいね…」
「あっ……あ、いやあれは……!!というか沖田さんも若いですからね…!?」
「おい廊下さっきからうるせえぞ!!さっさと寝やがれ!!!」
囁き声とはいえど、力が籠もればそれなりに大きいらしく。
ついに雷が落ちてきた。
「たぶん土方さんの声でみんな起きたよね。」
「あはは…」
否定できない。
「…まあ、とにかくさ。
その気持ちが何なのかは自分で気づけると思うな。俺の出番はないみたい。
とりあえず……人生は経験がいちばんだよ!桃華ちゃんなら大丈夫!」
最終的に笑顔で言い放った沖田さんに、思わず声も大きくなってしまい。
「雑になってません!?」
と、私の声は、辺りに響いてしまう。
「「……あ。」」
「うるせえっつってんだろうが!!!!!」
今度の土方さんの怒鳴り声は、おそらく近所の方々も起きるほど大きかったです…。
「おはようございます…」
「見事に寝不足だね、桃華ちゃん。」
「沖田さんのせいでもあると思います…」
あれから変に考えてしまった。
眠気はいまいち冷めぬまま、ゆっくりとお鍋の中をかき回す。
「昨日は何があったんだ?副長の声が聞こえてきたが…」
斎藤さんの呆れ声に、苦笑いしかない。
「まあ、色々あってさ。」
「…」
斎藤さんは怪訝そうにこちらを見ていたけれど、すぐにたくあんを切る手に視線を落とした。
「あまり副長の手を煩わせるなよ。」
「手じゃないから平気平気。」
「そうじゃない。」
相変わらず二人は仲が良い。
沖田さんがさりげなく伸ばした手を容赦なく叩く斎藤さんは、その後何事もなかったかのようにたくあんを切りすすめる。
人数が多いと、漬物を切るのも一苦労だ。
「…して、麻木。
いつまで鍋を混ぜるつもりだ?豆腐の原型が…」
「えっ!?!?」
その言葉にハッと手元を見ると、斎藤さんの言う通りぐちゃぐちゃになった豆腐がぷかぷかと浮かんでいた。
沖田さんは声をあげて笑う。
「腹に入っちゃえば一緒だよ、ねえ桃華ちゃん?」
「す、すみません…」
ど、どうしようこれ……。
このまま出して大丈夫かな。
そんな私の思いを察したのか、沖田さんはまだ笑い止まないまま私の肩をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫、斬新で面白いよ!」
斬新って……慰められてる気がしない。
「はーぁ、それにしてもこれ桃華ちゃんが作ったなんて誰も思わないだろうね。誰に文句がいくんだろう!」
「お前だな。」
「ちょっと。」
すぐに喧嘩っぽい口調になった二人だけど、目は笑っている。
楽しそうだなあ。
私にはこんな仲の友達なんていなかったから少し羨ましい。
「とりあえず、今日は良いんじゃないのか。
…遅れるし、急ぐぞ。」
斎藤さんは言いながら再びたくあんを切り始めた。
ーーざくっ
「あ。」
「あ。」
「あ。」
「「「………」」」
「痛い…」
「ちょっと斎藤さん一回手!手を離してください!血がついちゃう!」
「あっはははははははははははは!!!感想が!!!素朴!!!!!」
「どうすれば良い?」
「手!を!離!し!て!く!だ!さ!い!!」
「ああ、すまぬ。」
「ねえこの血がついた一切れどうする?土方さんのとこにしちゃう??」
「やめてください!」
「責任持って僕が食べる。」
「僕。」
「…俺が食べる!」
「何やら騒がしいですが、支度は整いましたか?食器は既に…って組長!?どうされたんですか!!」
「ああああああもうとりあえず斎藤さんは山崎さんのところへ行ってください!あとは私たちがなんとかします!!」
急に騒がしくなった厨。
その騒ぎを聞きつけて現れた人たちによって、余計に騒ぎがひどくなってしまった。
そのせいでか朝餉の時間が大幅にずれてしまい、土方さんから大目玉をくらったのはまた別のお話…。
…因みに、味噌汁の文句は沖田さんに行きました……すみません。
