皆さんこんにちは、麻木桃華です。
今私は、屯所の壁に張り付いて息を潜めています。
何をしているか、ですか?
それは……
「あ、誠一郎。」
「どうかしたか?八十八。」
真実究明のための活動です。
兄さまも山野さんも、凄く優しい声で、聞いててとても落ち着くなあ。
なんて思いながらも気配は出さないように気を使う。
先ほど部屋に行こうかと歩いていたら、たまたま山野さんを見つけたのだ。
それで何となく隠れてしまっていたら、ちょうど兄さまの声が聞こえてきて。そのまま様子伺い中である。
「この前の事なんだが、何か進展はあったか。」
「ああ……甘味を食べたいけれど一人で行くのは恥ずかしい、誰かの付き添いのような形で行きたい…って言う話、だよな?」
「……何故言った。」
山野さんの不機嫌そうな声に、兄さまの楽しげな笑い声が重なる。
「良い人を見つけたぞ。」
「何。」
何となく私までもが息を飲んで、次の言葉を待つ。
「………うちの弟だ。」
しばし、沈黙が流れた。
私も呆然とする。
兄さまに弟……?
「お前に弟がいた記憶はないが。」
「最近入隊してきたんだ。従兄弟だけどな、桃華って言う奴。甘味も好きだしまあまあ幼いし優しいし、ちょうど良いんじゃないか?」
あ、そうか私男装してるから……。
何で気づかなかったんだか。と少し前の自分に呆れた。
それにしても、まさか何も言わずに私を山野さんに勧めるとは。
たぶんもう少ししたら、私に「甘味を食べたいので連れて行ってほしい」みたいなことを山野さんに対して言わせるんだろう。
「…良いのか?」
「良いよ。あいつも喜んでくれるさ。もちろん会計はお前もちだぞ?」
「当たり前だろ。」
そんな会話に、つい焦ってしまったせいか。
私は隠れていたところから飛び出してしまった。
「いやそれは申し訳ないです………あ。」
「あ。」
「あ。」
気まずい空気が、静かに私たちの間を流れる。
鳥の鳴き声が、不思議と大きく響く。
「……すみませんでした……」
私が発したこの声も、普段より大きく聞こえた。
「んまあ、桃華の他には誰もいなかったんだし、どのみち話すことにはなったからさ…」
兄さまの苦笑いを混ぜた声は、今の山野さんには届かない。
「そ、そうですよ!甘味が好きだからって、その、恥ずかしいことありません!」
私の必死の声も、届かない。
「八十八〜…」
「山野さん…」
「「元気出せよ(出してください)…」」
当の山野さんは、そのまま膝を抱えて座り込んでしまっている。
じめじめとした空気を流し、手で小さく「の」の字を書いているようだ。
「っていうか八十八。」
「…何だ。」
「そうしてる方が恥ずかしくないのか?」
兄さまが慰めるのに諦めて言い放った言葉。
言い過ぎじゃないかと恐る恐る山野さんを見る。
「それもそうだな。」
………思った以上に効果てきめんでしたぁ…。
キリッとした表情に戻った山野さんに、もうどう反応すれば良いのかわからなくなってきた。
「桃華は、このあと用事はあるのか?」
「用事…ですか?」
特にない、はず。
そう伝えると、兄さまは満足そうに頷く。
「じゃあ八十八、早速今から行ってこいよ。」
「今から?」
「ああ。善は急げってやつだな。」
「それはちょっと違うと思いますが…」
まあ、良いか。
場所は変わってとある甘味処。
私と八十八さん(そう呼べと言われました)は二人並んでお団子を頬張った。
ふわっと優しい味が口の中に広がって、ほう…と小さくため息を吐く。
「美味しいですね、八十八さーー」
言いながら八十八さんの方を伺い……固まった。
え、待って待って待って。
私の隣にいるの、八十八さん…ですよね?
すっごく幸せそうに目を細めながらもくもく食べているの、八十八さん…ですよね!?
「……」
思わず、クスッと笑ってしまう。
本当に甘いものが好きなんだなあ。
今話しかけるのはやめて、そっとしておくことにした。
また一口、お団子を口に入れる。
美味しい…。
「美味しかったです!また連れてきていただけますか?」
表面上は私が連れていってほしいと言ったことになっているので、そう言って八十八さんを見上げる。
「ああ、構わん。」
八十八さんは少し微笑んでから穏やかに言った。
今度、私からも誘ってみようかな。
そんな思いが湧き出るほど、八十八さんは嬉しそうな空気を出していた。
可愛らしい人、だなあ。
しかし、不意にその笑顔が曇った。……いや、鋭い睨みに変わった。
「……麻木。少しさがれ。」
「え?何がーー」
なんのことだかよく分からなくて、八十八さんの視線の方へ目をやる。
「っ!」
その先には、こちらを見つめる凛君の姿があった。
凛君は少し驚いたように足を止めたあと、ゆっくりと近づいてくる。
「…桃華ちゃん。」
八十八さんはそれを許さない、とでも言うように前へ進み出た。
「……一ノ瀬。」
「山野、さん…」
「こいつには話しかけるな。」
そっと、でも強く放たれた八十八さんの言葉に、凛君は目を見開く。
「何で、ですか…!」
「こいつの兄から全て聞いた。
上からの命も無く仲間を殺そうとする奴など、俺たちの仲間ではない。」
「兄…?誰ですか?桃華ちゃんにはいったい何人兄弟がいるんですか!」
兄……平助さんは今衛士だから、この場合は誠一郎兄さまのことだろうか。
「ち、違うの凛君!兄さまは従兄弟で……私の本当の兄弟は二人だよ!」
「…え?」
「…え?」
「…………え?」
私の一言で凍りついた凛君…はともかく、八十八さんに、私まで凍りついてしまう。
「……言ってませんでしたっけ……?」
「ああ…」
よ、余計な一言だった……!!!!
