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浅葱色の華
- 第二十四話 油小路の変・壱 -




「んで?今度は何なんだよ」
昨日と同様夜に集められ、原田さんは少し不満げに土方さんに問いかける。
「大事な話なのに忘れちまってたのは悪いと思ってる」
土方さんはきまり悪げに横を向いてほおをかいた。
大事な話?凛君がなにか掴んだのかな。
「実は報告がありまして」
私の予想は的中し、凛君が姿勢を正して話し出す。
何となく、部屋の中が静まり返った。
「御陵衛士は…………近藤さんの暗殺を目論んでいます」
そのせいか、この声も妙に大きく聞こえて。
「……は?」
沖田さんの困惑した声も、
「……それは、確かなのか」
斎藤さんの怒りを込めた声も、
「じゃあこっちは向こうを殺るのか?」
八十治の急すぎる声も、全ていつも以上に大きいように思えた。

「まあ、確かにこっちとしては向こうを始末しなきゃなんねえ」
ため息を吐きながら沈黙を破った土方さんは、やることと役割分担を簡潔に話す。
伊東さんをまず接待し、その帰り道を襲うようだ。で、その後集まった御陵衛士を一気に……。凛君と八十治はその御陵衛士を倒す側に入るみたい。
私は特に言われなくて、思わず首をかしげた。
「…あの、私は…」
「お前は俺たちと一緒に伊東の接待に行ってもらう」
伊東さんの、接待。
お手伝いのようなものとはいえ、とても重要な気がする…!
「そんな緊張しなくても良い。何かするわけじゃねえしな。…むしろ、向こうに察しられないようにしてくれ」
「わっ…かりました…!」
そうだ。知られちゃいけないんだ。
私は気を引き締めるべく、ほおを両手で叩いた。

「…そうだ、麻木」
「はい?」
「ーーーー」
「…え?」
「ーーーーーーー」
「……!」




…本当に、何もしません……!
次の日、盛んに飲み交わす近藤さんと伊東さんを眺めながら、私と土方さんはただ座って黙っている。
かれこれ半刻は過ぎている気がする…。まだ続きそうだなあ。
なんとかあくびを噛み殺して、私はそっと座り直した。


結局あれから一刻以上は経ってから接待は終わり、私はほうと息をついた。
今は伊東さんを暗殺する隊士さんたちの後ろで、土方さんと共に立っている。
辺りは真っ暗で、皆さんの少し緊張した目の光がほんのり見える程度。
「ーー来たぞ」
そっと声を落とした土方さんに、隊士さんたちは顔を見合わせた。
お互いに、こくりと頷く。
「行け」
この土方さんの声は、ひどく冷たく聞こえた。

これから自分が殺されるなんて思っていないであろう伊東さんは、鼻歌交じりに歩いている。
足取りも軽く、ほんのり赤い頰は月明かりによく目立つ。…あれだけ呑んでこの程度か、すごいなあ……。
でも、流石に四、五人の足音もすれば異変に気付いた様子を見せた。
息を飲む音が、こちらにまで聞こえそうな表情。
ーーー伊東さんは、抜刀する間もなく刃に貫かれた。

少しすると、次々と御陵衛士が集まってきて。
本格的に戦いも始まる。
凛君も八十治も戦っている中、私はただある人を探していた。
先ほど土方さんに言われた、任務。おそらく幹部の誰も知らないであろうこと。
…平助さんを、救い出す。
でもこんな暗闇でなかなか見つけることもできず、私はぐっと目を凝らした。
「…ん」
居た。
端の方で困惑した様子で立っている。
あまりにも闇に溶け込んでいて、気がつかなかった…。
私は覚悟を決めて、短刀を構える。
次の瞬間、思い切り屋根に向かって飛んだ。

「痛っ…た…!!!」
足がじいんとしびれました。
この前八十治がやっていたことを真似したのだけど…意外と足が辛い。八十治すごい。
って、そんなこと言っている場合ではなくて!
騒ぎで上に構っている暇は無いだろうけれど、念のため足音をなるべく立てないように屋根の上を走…りたかったけど歩いている。流石に落ちたら間抜けすぎることくらいわかっています。
そんなこんなでやっと平助さんの真上の屋根につき、今度はそっと降りた。
「平助さん」
「…っ!と、桃華ちゃん…?」
「ちょっとこっちに来てください」
ぐいっと手を引くと、平助さんは後ろを振り返りながらついてくる。
「急にどうしたんですか?ねえ、桃華ちゃ…」
「しっ!」
ここで周りにバレてしまっては意味がない。
私はつい平助さんの口に自分の指をあてた。
「静かに」
「……」
平助さんは驚いたようにこちらを見てから頷く。
少し走ったところにある柱の陰で、とりあえず私は立ち止まった。
「わっ………とと。
で、どうしたんですか?急に。僕たちは関わってはいけないのでしょう?」
「簡潔に言わせてもらいます」
私の言葉に眉をひそめた平助さんは、何をと目で問うた。
「…平助さん、新選組に戻ってきてくれませんか?」
「………は?」
土方さんから与えられた任務。
『…平助を助けろ。話がわかるようなら、な』
「じゃないと、このまま殺されてしまいます。…………………………私、に」
『できねえようならお前が殺せ』





八十治はそっと一ノ瀬を盗み見る。
高く飛び上がり、その勢いで飛び道具を投げたり、落下しながら斬りかかったり。
あまりにも鮮やかで、それでいて強くて。
普段の姿勢からは想像もできないような戦いぶりに、八十治は密かに感心していた。
と、危ない。
やはり元が新選組だったからか、衛士たちの剣の腕は確か。
八十治は慌てて刀を握る手に力を込める。
「…一ノ瀬」
「……何ですか」
「………何でもない」
「…………ハァ?」
怪訝…というよりは嫌悪を顔全体に表し、向かっていた衛士と斬り合う一ノ瀬。
八十治は小さくため息を吐いて、目の前の衛士に斬りかかった。

「一ノ瀬」
「今度は用があるんでしょうね」
「…もし、この戦いで俺が死んだら…。
平兄と共にもも兄を守ってくれないか」
「……はい?」
普段と明らかに違う態度を不思議に思ったのか、一ノ瀬は軽く振り返った。
「…はっ…!?貴方、何で…」
その目は驚きに見開かれる。
八十治の右手から流れ出る血。それは止まることを知らないかのようにぽたぽた絶えず滴り落ち、八十治の服を紅く照らしていた。
その傷でうまく握れないのか、刀は今にも落ちそうだ。
「まあ、見た目ほど酷くないんだが」
それでも表情はどこか諦めが混じっていて。
一ノ瀬の顔はカァッと赤くなった。
「………んな……!!」
「あ?」
「ふっざけんなって言ってんです!!何諦めてんだバカ!!!
斬られたからもういいや?兄妹のことは周りに託しちゃえ!?意味がわかりません!!!
ここで死んだら、もう何もできない!もう、大好きな人に大好きって言うことも、大好きな人と話すことも触れることも……喧嘩することだって、何もできないんですよ…!遺された側はどんなに辛いと思ってるですか。どんなに苦しいと思ってるんですか。どんなに…!どんなに、手を伸ばしたってもう届かないんですよ。
桃華ちゃんを遺して死ぬなんて、そんなのボクが許しません…。
あんたのことは嫌いだけど、桃華ちゃんの悲しむ顔はもっと嫌いなんだよ!!!!!」
そう叫ぶ口はわなわなと震えていて、目からは涙が溢れそうで。八十治は驚きに口をぽかんと開く。
「…もう二度と、死ぬなんて言わないでください」
一ノ瀬は言いながら自分の鉢金を取った。
それを八十治に向かって放り投げる。
「さっさと巻いてくださいよ。あと、それでボクが怪我したら許しませんから」
しばらく目を見開いていた八十治だが、少ししてからその顔は笑みに変わった。
「……はっ。それは理不尽すぎないか?」


「…一ノ瀬」「……何ですか」のところは「…」の数で遊んでます。笑
<2017/08/08 06:26 水瀬 玲>消しゴム
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