おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
浅葱色の華
- 第二十七話 妖…? -




みなさんこんにちは、麻木桃華です。
凛君の熱が発覚してから二刻ほど、やっとひと段落つきました。
そんなわけで平助さん、もうだいぶ動けるようになった八十治とともに私の部屋でおしゃべりをしています。
「………は?兄弟?」
「はい」
……おしゃべり、です。たぶん。



「兄弟ってそれ…どういうことですか?僕は兄弟なんて…」
「…本当に?いませんか?」
八十治の探るような目つきに、平助さんはこくりと頷く。
どうやら私と同じで、記憶がないらしい。
「というか、八十治君が敬語なんて珍しいですね。桃華ちゃん以外に使わないのかと思ってました」
「…」
八十治はまだ疑いがあるみたいだけど、平助さんのまっすぐな瞳を見てからため息を吐いた。
「…信じればいいんでしょう。そんな顔されたら俺だって疑えませんよ」
「信じてもらえて嬉しいです」
平助さんの、朗らかな笑み。
それはどう見ても本心からの笑顔で、やっぱり記憶はなくなってしまったんだろう。
「で、兄弟って何ですか?」
「…それは、ですね」



八十治が一通り話終わったあと、ふと平助さんの方を見ると、案の定ぽかんとしていた。
…く、口から何か出てる気がする…。
「まあ、そう簡単に受け入れられるとは思いませんでしたが」
予想以上でしたね、と八十治が苦笑する。
「そ、そりゃあ急にそんなこと言われてああはいそうですかなんて言えませんよ…」
平助さんのごもっともな言葉に、私はつい小さく笑ってしまった。
……あれ?でも。
私は夢でよく幼い頃の記憶を見ていたりしていたけれど、平助さんはないのかな。
「平助さん、夢で幼い頃の記憶を見たりはしませんでしたか?」
聞くと、平助さんは首をかしげる。
「んん……特には。そもそもあまり夢の内容を覚えてませんね」
なるほど。夢を見ていたのか見ていないのかもわからないけれど、とにかくそこまで印象に残っていないということだろう。
八十治は少し考えるように顎に手をやって、私たちをチラリと見た。
「……思い出せる方法が、あるにはありますが。後悔しないのなら試してみます?」
「…後悔?」
その二文字に、不穏な気配を感じて八十治の顔を覗き込む。平助さんも同じようにしていた。
八十治はこくりと頷く。
「とはいえ、そこまででもないんですがね。
自分の感情を上手く抑えられる自信があるなら問題はありません」
そんなこと言われたってよくわからない。
そっと平助さんの様子を伺うと、平助さんもよくわかっていないみたいで。きれいな藤色の瞳は不思議そうに細められていた。
「どうします?」
「…僕としては、思い出したいですよ。もし君が言っていることが本当だとしたら、兄として思い出さなければいけないと思います」
その言葉に、少しだけ驚いてしまった。
私なら、どう答えただろうか。間があったとはいえ、ここまではっきりと言えるだろうか。後悔するかもしれない、のに。
「もも姉は?」
「…え?」
急に話を振られ、変な声が出てしまう。
「もも姉は、それが平兄の記憶を取り戻す手立てになるかもしれなかったら、どうする?」
「どう、する…」
一度、頭の中で考えてみる。
後悔する、とはどの程度のものだろうか。自分の感情を抑えるだとか、そういったものが私にできるのだろうか。正直、不安でしかない。
でも、平助さんの…平兄の、記憶が戻るかもしれないなら。やって後悔か、やらないで後悔か………。
「…………うん、やる。やらせてください」
「わかった。じゃあ、目を瞑って」
唐突に言われて、目をパチクリと瞬かせる。八十治は目で「早く」と言ってきてるような気がしてから、すぐに従ったけれど。
暗い世界。気にしないと、二人がどこらへんにいるかすら微妙なくらい。
そんな中、不意に顔に手をやられて、目を開けそうになってしまった。
「ダメですよ、ちゃんと目を瞑って」
囁かれて、ぎゅっと目に力を込める。
サラサラとした髪の毛が首筋に当たる感覚がくすぐったくて、肩をすくめた。
「えっ…ちょっ…!なにやろうとしてるんですか破廉恥な!ちょっと!八十治君の変態!!!」
「ちょっと黙っててもらえます!?」
………今ものすごく目を開けたい。どうなっているの私。ふと脳裏をよぎる離隊前の凛君の行動のせいで、嫌な予感しかしない。
「はい、行きますよ」
八十治の言葉から一息置いて、何か額に柔らかいものが当たった気がした。
え?これ、何?
思うより先に、平助さんの息を飲む音と、背中の違和感に気づく。
「…目、開けていい?」
「どうぞ」
ゆっくり目を開ける。
目が慣れるまで少し眩しくて、思わず顔をしかめた。
「………ん?」
もうだいぶ目は慣れたはずなのに、いやに自分の肌が眩しい。もう少し茶色みがかかっていたと思うんだけど。
つい首をかしげて、さらに驚いた。
「や、ややっや八十治…!髪の毛がっ!」
髪の毛が、白い。本当に。純白という言葉はピタリと当てはまる白さ。まるで夢の中の私のよう。
「桃華ちゃん、背中に…!」
「背中?」
そういえば先ほど、背中に違和感を感じたのだった。
でも髪の毛のこともあってなんだか怖い。
恐る恐る振り向いて、私はその体勢のまま固まってしまった。
「………えっ???」
えっ?……えっ??……………えっ??????
えっ?ばかりすみません、本当に。
でも、そうせずにはいられない光景が広がっていたのです。
「翼……?」
私の背中から生えているとしか思えないそれは、どこからどう見ても……………鳥の、翼でした…。



「これは…どういうこと?」
八十治に問いかけると、八十治は静かに頷いて話し始めた。
「古来より、この国では天狗という種族が存在しておりました。以前は人間とお互いを支え合い、協力して暮らしていました。が、その力の強さ故に人間は天狗狩なるものを始めたのです。そのため、天狗は、人間に紛れて暮らすようになり、人間もいつしかその存在を気にしないように……忘れるように、なりました。
そして、俺たちはその天狗の一族に生まれた妖なのです。
しかし、俺たちには問題がありました。本来、女は黒い羽の烏天狗、男は白い尾の白狼天狗と決まっていたのですが、もも姉と俺はお互いに色が混ざり合ったのか、白い烏天狗と黒い白狼天狗として生まれてきてしまったのです。
これには一族に誇りをもつ父親が激怒。そして、ある程度は育てた後、俺ともも姉を捨ててしまいました。平兄はその際、最後まで父親を止めてくれていました。
そして、記憶のことなのですが。
…もも姉、思い出した記憶の中に、薬を飲んだ記憶はありますか?」
急に聞かれ、私は慌てて返す。
「う、うん……何か不思議な色をした薬だった」
「あれは、天狗の姿を自分の中に押し込め、人間として暮らすための薬です」
「え?」
思わず、聞き返してしまった。
どういうこと?
目で問うと、八十治はそっと私の羽を指差す。
「それを、隠すための。一度飲むと、解除するまでその効果は続く強力な薬です。…しかし、副作用はその記憶。俺は幸い記憶は消えませんでしたが、もも姉と平兄の記憶はなくなってしまいました」
よくはわからないけれど、つまりは人間の姿にするための薬だった、ということかな。
で、解除する方法が先ほどの………。
さ、先ほどの……。
「額に口づけ、ということになりますね」
「なんでわかったの!?」
私の言葉に、「顔に書いてありますよ」なんて笑う八十治。なぜだか平助さんも少し笑っている。
「…あははっ、なんだか懐かしいな。前も………………前………?」
「…!」
「平助さんっ…!」
思い出せたのかな!?
そう思って立ち上がりかける。
八十治に腕を引かれていなければ、そのまま平助さんに突っ込んでしまっていたかもしれないほど。危うく平助さんが潰れてしまうところだった。
「な、なんでしょう…靄がかかってよくわからない…けれど、ああ……僕は……」
平助さんは切なげに顔を歪めた。見てるこちらまで切ない気分になってくる、今にも泣きそうな顔。
あと少し、あと少しなのに。そんな思いのためか、平助さんは無意識に胸のあたりを握りしめる。
「……八十治君、僕にもお願いできますか。これで思い出せる気がする」
平助さんの絞り出すような声に、八十治はそっと頷いた。

凛君のお話は少しだけお待ちください(笑)
白いカラス自体、江戸時代では嫌われていたらしいですね。この話を書いた後に知りました←
<2017/09/14 21:43 水瀬 玲>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.