私が新選組で副長さん…土方さんの小姓として生活するようになって二日ほど。
あの後新選組についてしっかり教えてもらい、今は特にやることもなく炊事や掃除などのお手伝いをしている。
「麻木君。」
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、ニコニコと笑っている男性…六番組組長井上源三郎さんがこちらに手招きをしていた。
「どうかしました?」
「いやあ、君が当番の日の食事はいつも美味しいからね。是非とも総司や斎藤君にも教えてあげてほしいんだ。」
「ああ……」
思わず納得してしまい、私は苦笑する。
あのお二人はたぶん、根菜や葉物野菜など種類による調理法の違いなどを理解していないんじゃないかな。
葉物野菜の煮物と、根菜のおひたし…?を見たときはかなり驚いた。しかも味がなかった。野菜の味もしなかった。むしろすごいのかもしれない。
「わかりました。私で良ければ、いつでも。」
「すまんねえ。今日の夕餉の炊事当番は三番組だから、早速頼むよ。」
「はい。」
井上さんは微笑むと、そのまま歩いて行った。
…斎藤さんは先ず買い出しに問題があるから、誘ってお買い物に行こうかな。
そう思って歩き出すと、案外早く斎藤さんの姿を見つけることができた。
「斎藤さん!」
私の声に振り返る斎藤さん。
「…麻木。どうした?」
「今日の炊事当番、三番組でしたよね。手伝います。買い出しに行きませんか?」
私の問いに、斎藤さんはきょとんと首をかしげる。
「……そうだったか?」
…斎藤さんは、思いの外天然というか抜けているというか…何だろう……。
「もう組長!副長もお話してたじゃないですか!
すみません麻木さん。よろしくお願いします。」
三番組の伍長である林さんがそう微笑んできて、私は慌てて頷いた。
「あっ、はい!」
「じゃあ早速行きますか。」
街行く人が振り返る。
美男が多い新選組の中でも更に綺麗な顔をしている斎藤さんと、同じくらい格好良い林さんだ。私もそんな方々が歩いていたら振り返ってしまうだろう。
顔を赤くしながらこそこそと話す女の子があちらこちらに。
「…」
「…?どうかしたか?」
「お二人は本当に格好良いんだなって思いまして。」
「なっ!お、俺が…っ!!」
「組長はいつでも格好良いですよ!ああでも、寝顔は可愛らしいですし…」
…どうやら林さんは斎藤さんを本当に大事に思っているようだ。
斎藤さんはみるみるうちに顔を赤くする。
「〜〜〜っ!!往来でそんなこと大声で言うなあっ!!!!!!」
そんな斎藤さんを見ると、林さんが言っていることは間違いじゃないんだって思う。
見た目はとても綺麗で格好良いのに、背は男性にしては低くてムキになったり拗ねたりしやすくて、可愛らしい。
稽古の様子をのぞかせてもらったけれど、稽古のときは静かで、でも的確に教えているように思えた
「さあ、着きましたよ。今日は煮物にしましょうか。」
八百屋さんの前で立ち止まる。
すると二人はしゃがみこみ、それぞれ選び始めた。
「…………煮物か……これなんてどうだ?」
「ネギは使いませんよ組長。これなんてどうですか?」
「壬生菜も使いませんよ、林さん…」
ため息を吐く。
本気でよくわからないみたいだ。
「良いですか、煮物は結構長い間煮ますよね。ですから、根菜の方が向いているんです。大根とか…そういったものを選びましょう?」
「そうか。」
斎藤さんは曖昧に頷く。
「ところで、大根とは?」
これには私も林さんも体の力が抜けかけた。
さ、斎藤さん…重傷ですよ斎藤さん…!
「これですよ組長。ねえ麻木君?」
「正解です。」
何だか八百屋さんだけで時間が過ぎてしまいそうなので、後は私が選ぶことにした。
「さあ、始めましょう。」
「よろしく頼む。」
「よろしくお願いします!」
目の前にズラリと並んだ食材。
先ずは煮物を作ろうと思い、私は大根を手に取った。
「これをだいたい一口大に切ってもらえますか?」
「はい!」
近くにいた隊士さんに言うと、その人は少し危なっかしい手つきで大根を切り始めた。
「包丁を使うとき、押さえる手は猫みたいに丸めると良いですよ。
こうやって振り下ろすように……ああ、押し付けちゃダメです!葉物野菜とかだと潰れちゃいます!…そう、そんな感じです。煮物なので薄切りではなく厚めに切ってくださいね。
あ、斎藤さんは火の番をお願いできますか?お米を炊くので…………火の番はできるんですね。あっ、すみません……。
ちょっ、林さん!!だから壬生菜は使いませんよ!いつの間に…?まあ、おひたしに使いますか。
さ、斎藤さんそれ塩です!入れるのは砂糖!少しずつ入れてください!多いです、もう少し控えめに!
何故味噌汁にお醤油を入れようとしているんですか!?違います、味噌を使うんです!
だからもう林さん!林さんは壬生菜がお好きなんですか!?……ああ、そうですか………。
これはこうすると切りやすいんですよ。ほら、こんな感じです。」
家に居た時、お母様や女中の方にお料理を教わっていて本当に良かった……。
厨をあちらこちら動き回り、その度に様々な注意をしていく。
……これは、本か何かに注意点をまとめて渡した方が良いかもしれない。
時間があるときに書いておこうかな。一番組の分も。
こうして何とか出来上がった夕餉は、以前よりだいぶ良くなっていた。
三番組の皆さんは根っからわかっていないみたいだけれど、教えるとちゃんと理解してくれる。
藤堂さんや土方さんには驚いたように、永倉さん…二番組の組長さんや十番組組長の原田さんには笑顔で褒められ、斎藤さんも嬉しそうだった。
私も、井上さんに優しく微笑まれて嬉しかった。
私に出来ることは少ししかない。でも、その少しが役に立つこともあるのだな…と実感した一日だった。
次の日、今度は昼餉担当の一番組にて、三番組以上に苦労することになろうとは、その時の私には思いもよらなかった。
