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浅葱色の華
- 第二十九話 ないしょ -




「さあて、聞き耳を立てていた理由を聞かせてもらいましょうか」
ピリピリとした緊張感が、私たちの間を通る。
平助さんの探るように細められた目も、凛君のわずかに口角が上がった口も、どちらも凄み…のようなものがあって。見ているこちらがハラハラしてくる。
二人ともなにも言わないし、誰もここを通らないから、余計に空気が重い。
平助さんはなにも話さない凛君に苛立ちを覚えたのか、少しだけ眉をひそめた。「早く言え」とでも言いだけな瞳。
凛君はそんな平助さんを見てか、口元の笑みを深くさせた。
「…………………やだなぁ、そんなに怒らなくても良いじゃないですか。たまたま聞こえてきた話が重要そうで、タイミングを失っちゃっただけですから。
言われなくてもボクは誰にも言いません。もしボクが口を滑らしたってわかったら、その時は遠慮なくこの首をスッパーンッてしていいですよ」
たいみんぐ?話の流れ的には、出る機会…みたいな意味、のようだけど。
平助さんもそう受け取ったようで、まだ疑い深げな顔をしながらも続ける。
「本当に?例え幹部にでも、話しませんか?聞かれても?」
「それはもちろん」
「…」
即答した凛君に対して、平助さんは少しだけ緊張感を和らたのか、ふっと空気が軽くなった。
「……信用、しといてあげますよ。
他言は一切しないこと。もし誰かに漏らそうものなら、士道不覚悟で切腹です」
信用してるのかしていないのか。
でも、当の凛君は落ち着いていて、笑みをたたえたまま。
「ありがとうございます。
じゃ、ボクはもういきますね」
くるりと反対側を向いて、鼻歌交じりに歩き出す凛君。
先ほどまで平助さんに睨まれていたのに…心が強いのだろうか。
「……はあ、僕結構怖がらせようとしたんですが」
平助さんのため息に、慌てて返す。
「いや、物凄く怖かったですよ…!見ているこっちの足がすくみました」
「俺も、正直怖かったです」
平助さんは少し驚いたような顔をしてから、へにゃりと笑った。
「よかった。一ノ瀬君が凄いだけですか」
ぶんぶんと縦に首を振る。
「………それにしても」
八十治がおもむろに話し始めて、私と平助さんは首を傾げながらそちらを向いた。
八十治は顎に手をやって、考えるように目線を空中にやっている。
「肌とか、気づかれませんでしたね…」
「「あっ……」」
意外と、目立たないのかもしれない。



桃華ちゃんたちと別れて、ボク、一ノ瀬凛は軽いステップで廊下を歩く。
「んっふふ…」
気持ち悪いかな、この声。
でも、嬉しくてたまらないんだ。
「平ちゃん、桃華ちゃんと兄弟なんだ」
じゃあ、ライバルにはならないね。
例え平ちゃんにその気があろうとも、真面目な桃華ちゃんならきっと嫌がるだろう。
本当は今にも叫んでいろんな人に話して回りたいくらいだけれど、絶対内緒らしいからなあ。
流石にまだ若いし、夢も叶っていない。いつ戻れるかもわからないけれど、いつかきっと戻れるから。
「命は、大事にね」
お口にチャック。命を捨てるなんて真似はしないよ。





その日の夜。
何やら玄関の方が騒がしくて、私はそっと部屋から顔を出した。
「ーーー!!!」
「ーー!?」
「ーッ!!ーーーーー!!!」
声は聞こえるけれど、何を言ってるのかわからない。
「何かあったのかな…」
ぽつり、呟くと、隣から声が聞こえてきた。
「近藤さんが撃たれたんだって」
「近藤さんが?」
そちらを向くと、凛君がうつ伏せに寝転がった状態で、頬杖をつきながら部屋から上半身を出しているのが目に入る。
…寝癖ついてる。いつもはサラサラしている印象だったから、なんだか意外だ。
じゃ、なくて。
「近藤さんが撃たれた…って何?」
「ボクもそこまで耳がいいわけじゃないから微妙だけれど」
言いながら凛君は体を起こして、縁側にストンっと腰を落とす。
つられて私も隣に座ると、「微妙だけれど?」と凛君の顔をを覗き込んだ。
「近藤さん、何かの帰り道に撃たれたみたいで。特に命に問題はないけれど、右肩の怪我が酷いらしいよ」
「右肩……」
そんなところ、下手したら刀が握れなくなってしまう。
そんな私の目に気がついたのか、凛君もコクリと頷いた。
「このままじゃそうなるって。だから今山崎さんが頑張ってるみたい」
「そうなんだ」
懸命に手当てをしている山崎さんの姿が、頭に浮かぶ。
近藤さん、大丈夫なのかな。なんだか不安。
嫌な予感というか……当たらないといいのだけど。
「…桃華ちゃん」
凛君の、吐息が多く含まれた声が優しく耳を撫でた。
「何?」
とそちらを向くと、凛君は微笑んでから囁く。
「月が、綺麗ですね」
月?
たしか今日は……。
空を見上げても、月は見えるどころか厚い雲で星も見えない。
「今日は曇っているから、月は見えないよ」
凛君は目を軽く見張った。
「…桃華ちゃん、意味わかって使ってる?」
「?」
何のことだろう。何か意味のある言葉なのかな。
首をかしげると、へにゃり…と力が抜けたような微笑みを浮かべる凛君。
「無自覚かあ、辛いなあ」
ははっ…と乾いた凛君の笑い声が闇に溶け込む。
「どういう意味?」
聞いてみても、凛君は答えてくれない。
そっと人差し指を伸ばして、私の口に当ててきた。
「内緒。というか知られたら恥ずかしいもん」
じゃあなんで言ったのかな。
そんな視線に気づいたのか気づいていないのか、凛君はまた一つ、小さく笑う。
「そういえば凛君、熱があるんじゃないの?」
「え?あれくらい直ぐ治っちゃったよ」
そう言って力こぶを作ってみせる凛君だけど、なんだか疑わしい。
それに、力こぶはほとんどできていない。…いやそれは関係ないけれど。
「そんな顔しないの。
実際、あれだけ高かったくせにほとんど下がってるんだよね。それを土方さんに言っておこうかなって思ったら、桃華ちゃんたちの話が聞こえてきたわけだし」
「……」
尚疑わしげな顔をしている私に、凛君はムッとしたように眉をひそめた。
「ほら、証拠!」
声と同時に、頭にゴンッと衝撃がくる。
突然のことで何がなんだかわからなくて、私は目を瞬かせた。
「どう?」
そう上目遣いに聞いてくる凛君の顔は、いつもよりずっと近くて。
私の額に、凛君の額が当たっているんだ。
そう気づく頃には、私の顔は真っ赤になっていた。
「……だ、いじょうぶ…みたい、だね」
ちゃんと計れてるのか微妙なところだけれど、少なくとも高熱ではない、と思う。
…正直、恥ずかしくてそれどころじゃない。
「でしょー」
笑いながら顔を離した凛君は、不意にそのまま硬直する。
どうしたのだろうか、と首をかしげると、瞬く間に凛君の顔は赤くなっていった。
「あ…ボク……」
無自覚だったんですか……。
私は軽くため息を吐いてから、笑顔を作ってみせた。
「元気そうでよかった」
たぶんここで私も照れていたら、気まずくて仕方ないだろうし。今更な気もするけれど…。
でも凛君はホッとしたように柔らかい笑みを見せた。
「それにしても…」
私は言いながら空を見上げる。

「…寒い、ね…」
「……うん…………」


現在、師走です。

今日は中秋の名月らしいですね。お団子を買ってもらったので食べるのが楽しみです(*´꒳`*)
<2017/10/04 18:14 水瀬 玲>消しゴム
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