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浅葱色の華
- 第三十四話 改変 -





「嘘でしょ…?」
人気のないところで、ボクは冷や汗を流しながら呟いた。
鳥羽・伏見の戦い。本来なら、新政府軍が勝ったはず。
なのに何故?旧幕府軍が勝っているの?
このままでは、歴史が変わってしまう。そうしたら、未来の日本はどうなってしまうのだろうか。
悪寒が走って、ボクは小さく身震いした。
何がいけなかったのだろうか。ボクというイレギュラーな存在がいるから?ボクが何か勝利に貢献したのだろうか。
…いや、それはない。
ボクがやっていることは一般の隊士と大して変わらないはずだ。
…………もしかして。
桃華ちゃんたちの本陣襲撃がいけなかったのだろうか。
桃華ちゃんと八十治さんはボクの知っている限り存在しない。でも、二人は幹部とかでもないし、文献とかに残らなくても当然といえば当然だ。
となれば、今わかる中で一番怪しいのは…。

「平ちゃん、だ」





「…桃華ちゃん」
「どうしたの?凛君」
ひどく顔色が悪い凛君に呼び止められ、私は首を傾げながら立ち止まった。
「前さ、ボク、未来からきた…って、言ったよね」
「うん」
それがどうかしたのだろうか。
「…………もし、歴史が今変わっている…と言ったら、どうする?」
「……え?」
歴史が、変わっている?
簡単には信じがたいことだ。けれども、凛君の顔色が全てを物語っているようで。
「…どこが、変わっているの?」
「……落ち着いて聞いてくれる?」
声を潜めた凛君に、私は慌てて
「私の部屋に行こう」
と言った。
流石に、廊下で話せることには思えなかったから。




「…つまり、平助さんはもう亡くなっているはずの人で、今回の戦は勝ってはいけないものだった…ということ?」
「うん」
凛君は小さく頷いた。
私は顎に手をやって、頭の中で考えを巡らす。
「……平助さんを生かしてしまったのは、私じゃないかな」
あのとき、私には土方さんから『平助をこちらに連れ戻せ。もし平助が拒んだら殺せ』のような命を受けていた。
もし、私じゃない人だったら。もし、平助さんの思いが頑なだったら。
変わっていたのかもしれない。
「………正直、ボクもよくわからないんだ」
「え?」
「だって、幹部の資料だってあまり残っていないのに、一般の隊士とかの資料がそうあると思う?
…まあつまり、桃華ちゃんや八十治さんがどんな動きをしていたのか、……そもそも新選組にいたのか、それもみんなわからない」
「そう、なんだ」
当たり前といえば当たり前。
「でも、これだけはわかる。
もしこのまま旧幕が勝ち進んだら、未来の日本は間違いなく変わると思うよ。
どうなるのかとか明確にはわからないけれど、全く違った世の中になっているかもしれない。
それくらい、大事な戦だと思うんだ」
…全く違った世の中。
そもそも未来のこの国がどうなのか知らないけれども、それがどんなに大変なことかはなんとなく想像がつく。
「…どうすれば、少しでも綻びを直せるかな」
「……わからない。
…っでも、もしかしたら、これから少しずつでも本来の歴史に近づけたらーー」
「それは」
思わず遮ってしまった。
でも、どうしても確かめたかった。
「……平助さんを、殺す…ということ?」
凛君は、なにかが喉に詰まったような顔をする。
「………でも桃華ちゃん、もし歴史が…」
「そもそもその文献が間違っているとか、そういうことはないの?一人の生き死にが、最終的に未来の国を変えることがあるの?」
わがままなことだってわかっている。
でも、もしその文献が間違っていたら、取り返しのつかないことになる。それに、一人くらいの違いなんて、大したことないかもしれない。
そう思ってしまうのは、仕方のないこと…じゃないかな。
「凛君、もう少しだけ…待ってみようよ」
「でも、取り返しがつかなくなったら…」
「……それはっ、そうだけど…」
凛君はそれっきり黙りこくる。
私も何も言えなくて、部屋に静寂が訪れた。





「……桃華ちゃん」
「何?」
ふと凛君に呼ばれ、私は顔をあげる。
「ボクのこと、嫌っていいからね」
「…………え?」
凛君は立ち上がり、そのまま静かに廊下に出て行ってしまう。
「…どういう、こと?」
残された私は、小さく呟いた。



「どうしたんです?こんな夜更けに」
翌日の夜中。
急に一ノ瀬凛に呼ばれ、不思議に思いながら藤堂平助は夜の路地に現れた。
いくら気の知れた仲間とはいえ、不自然な呼び出しに平助の左手は刀にかけられている。
一ノ瀬は平助の声に振り返り、小さく笑みを浮かべた。
月明かりに照らされたその瞳には、何が写っているのだろうか。
「…平ちゃん」
「はい?」
「ボクさ、未来から来たんだよ」
「はあ?」
頭でも狂ってしまったのか。そう疑いたくもなるほど、唐突でおかしな内容。
しかし、一ノ瀬の表情は真剣そのもので、平助はきょとんと首をかしげる。
「21世紀。だいたい、今から150年後かな」
「……それが、どうしたんですか?」
取り敢えずは信じたふりをして、平助は問いかけた。
「ボクね、前の彼女が歴史好きでさ。ある程度新選組の話も聞いてたの」
「…はあ」
いまいち話の内容がつかめず、曖昧な返事を返す。
「………新選組、これからどんどん負けてって。最終的には散り散りになっちゃうんだ」
「ーーっ!!」
平助は目を見開いた。
なんとなく予想がついていたとはいえ、ここまでもはっきり言われるとやはり驚いてしまう。
「でもね、おかしいことがあるの」
「………なんですか?」
嫌な予感がしてきて、平助はじっと一ノ瀬の口元を見つめる。
「鳥羽伏見の戦い。本当は新選組のいる旧幕府軍が負けるんだよね」
「…はっ」
間抜けな声が出てしまった。
本当は、負けていた?
一ノ瀬の言っていることが正しければ、歴史が変わっていることになる。
「んでさあ、ボクちょっと原因について考えてみたんだ。
それで、あることに気がついた。
桃華ちゃんたちは普通の隊士さんだから、実在していたのか、とかはわかんないけど、明らかにおかしいことがある。
………平ちゃんが、生きていること」
「…え?」
自分が、生きていることがおかしい?
何故なのか、と目で問う。
「平ちゃんはね。
油小路の変で殺されてる筈の人間。
彼女は藤堂平助が好きだったから、これは確かだよ」
ヒュッと、平助の喉が鳴った。
話の内容に対して、…まっすぐ己に向いている、小さな銃口に対して。

えちょまっ…待つんだ凛君!早まるな凛君!!
<2017/11/26 20:54 水瀬 玲>消しゴム
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