「拳銃?」
こちらを向く銃口に、平助は囁くように言った。
「ご名答」
一ノ瀬はニヤリと笑い、ピタリとこちらに狙いを定める。
「一応聞いてあげるね。
平ちゃんは、これからどうしたい?」
一ノ瀬の問いかけに、平助はしばし考えるように目を閉じた。
「…それはもちろん、新選組のために戦いたいですよ。
それに…桃華を、八十を守りたい」
「ふぅん…」
言いながら刀を抜いた平助に対し、一ノ瀬は顎に手をやって目を細める。
「残念だなあ。ここで泣いて命乞いでもしてくれれば見逃そうと思ったけれど…」
ーーパァンッ
乾いた音が、あたりに響いた。
「ごめんね?
……でも、歴史を守るためだから」
ーードサッ…
「痛っっった……!!」
「だから謝ったじゃん」
「そういう問題ですか」
左足を撃ち抜かれた平助が、恨みを込めて一ノ瀬を睨みつける。
「立てる?肩貸そうか?」
「お願いします」
一ノ瀬の肩にもたれるようにして立ち上がった平助の足からは、鮮血が流れ出ていた。
「……足で死なないよね?」
思わず、一ノ瀬は囁く。
平助は「おそらく」とだけ返した。
「でも、なぜ足を撃ったんです?」
「だって、殺しちゃったら桃華ちゃんが悲しむし……。
歴史を変えないために、戦には出さないようにしないといけないじゃん。手っ取り早いのは足を撃つことかなって」
「とんでもない考えだ」
目を見開いた平助に、一ノ瀬は小さく笑みを見せた。
「日常生活はボクが助けるよ。戦に出てる時は厳しいけれど」
「…当たり前です」
「はい、応急処置くらいはできるよね?
これで昨日まで隠してましたってことにしよう。
着物も…うん、それくらいなら隠してたっていうので充分通じるね。あれだったらボクが繕ってあげる。一応こういうの得意なんだよ?
痛い?明日にはちゃんと手当てできるからね。因みに土方さんがそんな状態でも戦に出させようとしたらもう一発撃つか土方さんビンタするかの二択だからね。…ああ、平手打ちのこと。まあ流石に足だし、歩くのも大変でしょ?大丈夫だとは思うけど……まあ基本はビンタの方向で。OKわかった。
歩くときとか、何か用があったらボクを呼んでね。ボクがいなければ桃華ちゃん、桃華ちゃんもいなかったら…うん、頑張って。
よし、とりあえず寝ようか。え?ここ平ちゃんの部屋だよ?ボクは自分の部屋に帰る。
……ああでも、やっぱりこっちがいいかな……八十治さんに色々詮索されたら嫌だし。ごめんね、ありがと。
じゃあ明日朝になったら土方さんの部屋スッパーンってやって、『ちょっと土方さん!平ちゃん怪我隠してたんですけど!!!』って言うから、遅れて『大したことないですよー』とか言ってね。
うん、おやすみ」
長い。
ほとんどボクが喋っていただけなんだけど。
平ちゃんは少し不満げだったけれど、歴史を守るためならとなんとか認めてくれた。
それにしても、我ながら酷いなあ。問答無用で足撃ち抜くとか、人のやることじゃないよ。
チラリ、と平ちゃんの方を見た。
長いまつ毛と髪の毛が、障子の隙間から差し込む月光に少しだけ反射して、キラキラ光っている。
平ちゃんの髪色、天然だよね?この時代にこんな薄い髪色っていたんだ。
そういえば桃華ちゃんもそうだよなあ…。
ボクに薄い髪色は似合わないだろうけれど、ちょっと羨ましい。
ーーージジ
不意に頭の中にノイズのようなものが走って、顔をしかめた。
なんだろう、これ。
手を上に上げてみると、なんだか薄くなったり濃くなったりを繰り返しているような、変な感じになっている。
「んん?」
痛みとかはないのだけれど、なんだろう…違和感というかなんというか。
『まだ目を覚まさないよ』
『ねえ……どうして?凛…』
『お前…なんで、なんで木なんか登ったんだよ』
「っ!?」
ガバッと身体を起こした。
懐かしい声。
ボクの友達。…いや、同じ夢を追う仲間。
…そうだ、ボクは……。
木から降りれなくなった猫を助けようとして、登ったこともないのに登って…、そのまま落っこちて。
ダッサいなあ、我ながら。
それで気絶したと思ったらこっちに飛ばされて…。傷も痛みも何もないから、特に考えもしていなかったけど。
もう、来てから何年も経ってる。ということは、意識を失ったまま何年も眠っているの…?
なによりも、このノイズと違和感は何?
……もしかして、戻ろうとしているの?ボクはもうすぐ、向こうに帰るの?
喜ぶことのはずなのに、心がもやもやする。
ボクがこのまま帰ってしまって、歴史が戻せなかったらどうしよう。とりあえず平ちゃんのお休みで少しでも戻せたらいいけれども……。流石にそう簡単ではないよね。
「んぅー…」
聞こえてきた声に、ボクは横を向いた。
ーーーヒュッ
「ぺぷっ!?!?」
勢いよく振り下ろされた腕に、顔を強かに叩かれる。
一瞬何が起きたのかわからなくて、パチクリと目を瞬かせた。
少しして、平ちゃんの腕がこちらに振ってきた…要するに平ちゃんの寝相だと理解する。
「……ははっ」
思わず、口から乾いた笑いが出る。
いつのまにか、ノイズや違和感はなくなっていた。
…とりあえず、今は寝ておこう。
「ひーじーかーたーさーん!!!」
ドタドタと慌ただしい足音、そしてこの声に目が覚めた。
何事かと起き上がると、土方さんの部屋の方で何やら話している声が聞こえてくる。
凛君と平助さん?
急いで身支度をしてそちらに向かうと、何やら言い合っているのが目に入ってきた。
昨日のこともあって、なんだか嫌な予感がする。
「だから、別に僕は平気だって言ってるじゃないですか!」
「足撃ち抜かれて戦に行かれてたまるかっての!土方さんも何とか言ってくださいよ!」
…?
なんの話をしているのだろう。
「…あー、うん、なんというかな…」
あっ。
声に出すより先に、鈍い音が聞こえてきた。
「時間を考えて騒げ阿保!!!」
「「痛ったぁー!!!」」
それから少しして、なんとなく話の内容がつかめてきた。
平助さんが戦で足を撃たれていたのに、黙って自分で応急処置だけしていたらしい。
それをたまたま平助さんの部屋に泊まっていた凛君が発見。すぐさま土方さんに報告をしに行き、現在に至るというわけだ。
「…ねえ八十治、私たちは怪我の治りが早いんじゃないの?」
「はい、早いですよ」
私の問いかけに、八十治はこくりと頷く。
「じゃあ何故、平助さんの怪我はまだあるの?」
この話を聞いて一番に疑問に思ったことを聞くと、八十治もふうむと顎に手をやった。
「…なぜでしょうね。
もしかすると俺たちも銃の傷は治せないのかもしれません。そもそも攻撃は受けない方がいいですが、銃は特に気をつけた方がいいでしょう」
わからないんだ。
まあ、八十治にだって知らないことはあるだろう。
そっか、とだけ返して私は平助さんの方へ向かった。
「凛君、まだ平助さんは手当てをしていないんだよね?」
「え?うん」
「よし、行きましょう平助さん」
軽く怒りも込めて平助さんに微笑むと、平助さんはヒッと小さな声を漏らした。
「……お、お手柔らかにぃ…」
「それはどうでしょう」
…この日、滅多に聞くことのできない幹部の悲鳴を聞くことができたとか、いないとか…。
