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浅葱色の華
- 第四話 池田屋事件 -





何か、広間が騒がしい。
いつもの食事の時の騒がしさではなくて…緊張感のある騒がしさ。
廊下に一歩出た私は、キョロキョロと辺りを見回した。
と、通りかかった人……沖田さんにぐいっと手を引っ張られる。
「君もきて!」
「えっ……」
ど、何処に……?
と聞く間もなく、そのまま広間に連れていかれたのでした…。



「四国屋か池田屋か…だな。」
今話している内容は…討ち入りの場所について、みたいだ。
何やら、昨日の拷問にて様々なことがわかったようで。
尊攘派の御所を焼き討ち、天子様を連れ出そうとしている人達がいるらしい。
その人達を捕縛するために作戦を練っているのだ。
話によれば、確率が高いのは四国屋と池田屋の二つ。特に四国屋である可能性が高いみたいだ。
しかし池田屋である可能性も拭いきれない。
そこで、隊を二つに分けるようだ。
池田屋には局長さん…近藤さんを中心に沖田さん、藤堂さんなど約十名。
四国屋には土方さんを中心に斎藤さん、原田さんなど約二十四名。
「桃華…お前、腕は確かか?」
「えっ…?」
急に聞かれ、言葉に詰まる。
自分だとどれだけ強いのか、全くわからない。
どうしよう…。
「桃華ちゃんは小太刀の扱いはまだ微妙ですが、短刀を持たせると強いですよ。」
藤堂さんの助け舟に、ほっと息を吐く。
「……じゃあ、お前は近藤隊の方に行け。良いな。」
「…はい。」
小姓なのに行っていいのかな。
でも、嫌がったら迷惑かけるだろうし、嫌がる理由もない…とは言い切れないけど。
血とか、殺し合いとか……少し、不安だ。
でも、やるしかない…よね。
「精一杯、務めを果たします。」
「おう、それでこそ俺の小姓だ。」
「土方さん関係ありませんよ。」
藤堂さんのチクリとした毒に、土方さんの眉間のしわが深くなったような気がした。




色街の建物と建物の間に潜み、池田屋の方をじっと見つめる。
「……こっちが当たり、かな。
どうします近藤さん?俺、このまま逃すの嫌だなあ。」
「………このままというわけにもいかないが…」
沖田さんに、曖昧に答える近藤さん。
このまま逃すわけにもいかないけれど、十名ほどの隊で討ち入るのはこちらが不利、だと思う。
会津藩からの伝令も来ないし、ここは待った方が……でも、それで逃してしまったら…。
「…よし、行くぞ。」
近藤さんは決心したのか、しっかり前を見据えて言った。
その言葉に藤堂さんや沖田さんは嬉しそうな笑みを浮かべる。
…これから人を斬る人の顔じゃないよ。
「やったぁ!よし、行きましょ近藤さん!」
藤堂さんの声を合図に、私たちは池田屋の前に走った。


「御用改めである!!!」
大声で討ち入りを知らせ、そのまま抜刀する近藤さん。
皆さんも刀を抜いている。
私も慌てて短刀を抜いた。
バタバタと音を立てて上から降りてきた人たちは、私たちを見るなり斬りかかってきた。
足が、すくみそうになる。
チラリと横を見れば、藤堂さんも沖田さんも人を斬っていた。
濃い、血の匂い。
どくん…と、血が湧いた気がした。
何で…?
今まで、こんな生活無縁はずだったのに。
体が軽くて、動きやすくて。不慣れさは微塵も感じない。
人の命をかけたところで不謹慎だけど、私は口角を上げた。
「ふふっ…」
短刀と刀だと、長さ的には不利だ。
でも、相手の懐に入ってしまえばそんなことない。
ズシュ…なんて音とともに思いっきり相手の心の臓を突き刺し、即座に抜く。
返り血が顔にかかったが、気にならなかった。
……もっと、小太刀の扱いを学ぼう。
短刀は短い分、斬るのは難しい……気がする。
そうするとお突きに頼るしかないけれど、大勢の敵に囲まれたら終わりだろう。
少しでも長い小太刀を身につければ、いくらかマシになるはず。
頑張らなきゃ。
「麻木!そっち行ったぞ!」
誰かの叫び声にハッと目をやると、すぐ近くで敵が刀を振り上げていた。
「きゃ…」
思わずそんな声を出しながら、素早く相手の刀を打ち払って心の臓を貫く。
「ふう…」
考えごとは、やめたほうが良いな。うん。



どれくらい時間は経ったのかな。
斬っても斬っても戦いは続く。
息は乱れ、暑さに汗も出てきた。
考え的にも、油断していたのかもしれない。
次の瞬間、背中に感じた鋭い痛みに目を見開いた。
肩から腰の方にかけて、じんわりと激しい痛みが広がっていく。
振り返ると、血に汚れた刀を持つ男の人の姿が目に入った。
そして、その後ろには倒れた藤堂さん……。
…藤堂さんを、斬ったのはこの人?
痛みと、怒りが体の中を巡っていく。
私は迷うことなく、その男の人の喉を目指して短刀を振りかざした。
断末魔の叫びを上げる男の人の息が止まったことを確認して、私は藤堂さんに駆け寄る。
藤堂さんの額から流れ出る血に、息を飲んだ。
「藤堂さん!藤堂さん!大丈夫ですか!?」
肩を揺する訳にもいかず、声をかける。
藤堂さんはうめき声と共にうっすら目を開いた。
「桃華、ちゃん……君こそ……」
「私なら大丈夫ですから!」
本当は、背中がじんじんと痛くて、息も詰まる。
でも、藤堂さんの大怪我を前にそんなこと言えなかった。
どうすれば良いんだろう。止血の仕方なんてわからない。
焦りが、私の中から滲み始めていた。
「総司、総司ーっ!!大丈夫か総司!!」
近藤さんの焦る声が聞こえて、ハッとそちらを向く。
「げほっ、がっ……!」
沖田さんは、血を吐いていた。
苦しげに顔を歪め、何とか立ち上がろうとするも次々に口から溢れる血は止まらない。
「沖田さん…っ!」
周りには敵もいるから、援軍に行きたい。
でも、そうすると藤堂さんが……!
じわりと涙が出てきそうになった瞳に、ふと人影が映った。
「遅くなってすまない。」
「沖田組長は俺が。」
「斎、藤さん……林さん…!」
二人は私に微笑むと、それぞれテキパキと動き始める。
「沖田組長!大丈夫ですか!?」
「林君……」
林さんは沖田さんの助けに。
流石三番組の伍長さんだ。直ぐに敵を斬り伏せる。
「酷い怪我だな……布を持っているか?」
斎藤さんはしゃがんで藤堂さんの手当てをし始めた。
「いえ……でも、着物の袖なら!」
私の答えに、少し驚いた顔をする斎藤さん。
…あれ、違ったかな……。
でも、ふっと笑顔になった。
「良いのか?」
「はい!」
「………助かる。」
その返答に、私は袖を肩の部分から切り裂いて斎藤さんに渡す。
斎藤さんはそれを半分にして片方を藤堂さんの額にあてた。
血はまだ出ているようで、その着物は早くも朱に染まっていく。
「藤堂さん…」
ぽつり、呟いた。
私が油断していなければ。
後ろで起きていたことにもっと早く気がついていれば。
藤堂さんは、こんな怪我しないで済んだかもしれない。
後悔の念が、頭の中を飛び交う。
「……麻木。」
「ふあっ!?あ、はい!何でしょうか?」
「平助のことは気にするな。」
「………えっ?」
斎藤さんはきょとん、とする私の目をしっかりと見て言った。
「別に、お前が悪いわけじゃない。平助が鉢金を外したこと、潜んでいた浪士に気づかなかったこと、反応するのが遅れたこと。原因はお前には関係しない。だから…その、お前は気にするな。」
「斎藤さん…」
斎藤さんの言葉から気遣いが滲み出てて、優しく私を包む気がして。
胸のあたりがじんわりと暖まった。
「取り敢えずこれで応急処置は終わった。
後は山崎が居れば………」
「山崎さん、ですか?」
聞いたことのない名前に、思わず聞き返す。
「お前は会ったことがないのか。
監察方をやっている、背の低い奴なんだが…」
「ちょっと斎藤組長。背の低いは余計です。」
「ひゃっ!!!」
斎藤さんに返すように横から聞こえてきた声に、私は声をあげて後ずさった。
全く気配を感じられなかった。
今の話からすると、この人が山崎さん…かな。
私よりも低い背丈に、切り揃えられた前髪。焦げ茶色のサラサラした髪の毛は、左側で結っている。
整った顔は無表情で、少し怖い印象を覚えた。
「すまん、驚いたか?
俺は山崎烝。よろしく頼む。」
「あっ、私は麻木桃華です。よろしくお願いします。」
山崎さんは私に対してか軽く頷くと、しゃがみ込んで藤堂さんの傷を診始めた。
「ああ…これは酷い傷や……斎藤組長、さらしを用意して貰えますか。」
「わかった。」
斎藤さんが去っていくと、辺りは少し静かになった気がした。
もう、戦いは終わったんだ。
私たちも藤堂さんの応急処置が完了すれば、屯所に戻っていつも通りの日常が始まる。
…酷く、不思議だった。
「山崎さんは、何処の生まれなのですか?」
「俺か?俺は大阪だ。」
無表情で答える山崎さんに、私は思わず笑みをこぼす。
「どうかしたか?」
「いえ、だから話し方が独特なのだな…と。」
どちらかと言うと東言葉を使っているようにも思えるのだけど、先ほどから発音が所々おかしかったのだ。
失礼だとわかっていても、つい可愛らしくて笑ってしまう。
山崎さんは、そんな私に顔を真っ赤にしていった。
「ど、独特だったか……?沖田組長にはこれで完璧と言われたばかりだったのに…!」
山崎さん、それきっと遊ばれてます。
流石に声には出さなかったけど、心の中では黙っていられなかった。
「……笑えば良いさ。どうせ俺はチビやし女顔やし変な喋り方なんやろ。どうせ俺なんか…」
「あっいえ、違うんです!」
可愛らしいとは思ったけれど、変ではない。
拗ねてしまった山崎さんに、慌てて両手を振る。
「変ではなくて、ただ可愛らしいなって!
その、山崎さんは一瞬怖い方なのかと思ったので…表情の変化も少なく思えて…」
「怖い?」
「はい……」
上手く言えたのかわからなくて俯くと、急に頭に何か乗った感覚がした。
「手の平は血だらけだからな。
怖がらせてしまって、すまない。…その、顔も次からは気をつける。」
手の甲で、少し不器用に撫でられる。
何だか嬉しくて、思わずまた笑ってしまった。
「ま、また変なところがあったんか?」
「いえ…」
だから変じゃないのに。
「ありがとうございます。」
つい口を出た言葉に、
「礼を言われるようなことをした覚えはないが…」
山崎さんは不思議そうな顔をした。
「良いんです。
ほら、斎藤さん来ました!」
何故か腕に抱えるほどのさらしを持ってきた斎藤さんに慌てて助けに行く山崎さん。
年上の筈なのに、とても微笑ましいと思う。
「大丈夫ですか?」
私も助けに行こうとして、立ち上がった。
……そのあと、背中を走った激痛に声にならない悲鳴をあげて座り込み、傷に気づいた二人に黙っていたことを叱られることになろうとは、そのときの私は考えもしなかった。


山崎さんの身長は137㎝です!忠実ガン無視ごめんなさい!
…華奢キャラ大好きです。
<2017/01/05 16:56 水瀬 玲>消しゴム
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