「お、おねーさん!今ここ、何年ですか!?」
がしっと肩を掴まれ、思わず私は硬直した。
何故って…
「さ、斎藤さん…?」
斎藤さんに、とてもよく似ていたから………。
斎藤さんみたいな方があまりに取り乱していたので、とりあえず屯所に来てもらうことになった。
今は副長室で話を聞いている。
「一ノ瀬、凛です。男です。」
斎藤さんに良く似た顔だけれど、声はあまり似ていない。柔らかな…優しい声。
「…いや、性別は見りゃわかる。
んで?何で街中で叫んでたんだ?」
「あ、いや……ぅ…その…」
先ほどの態度とは一変、むごむごと口ごもる姿に土方さんは眉間にしわを寄せた。
「何だ?」
「ここって……新選組、ですか?」
「だからどうした?」
怖すぎます、土方さん…!
ギロリと一ノ瀬さんを睨んでいるのだけど、一ノ瀬さんは御構いなしに何やら考えている。
「…と…から……年……撮影…ない……ムスリップ…か…?」
途切れ途切れにしか聞こえない言葉からは、よくわからない言葉が混じっていた。
何だろう……異人さんなのかな。
「あの…ボク、帰るところがないんです。」
「「「………は?」」」
意を決したように顔をあげた一ノ瀬さんから聞こえてきた言葉に、私たちは揃って間の抜けた声を出す。
帰るところが…ない?
「なので、ここに入隊させてもらえませんか?剣はわからないけれど…その、身軽さには自信があります。」
「……は?」
再び声をだす土方さん。
拍子抜け、といった具合に口を開けながら、土方さんは聞き返した。
「帰る場所がない?ここに入隊したいだあ?」
「…はい。」
一ノ瀬さんはしっかりと土方さんを見据えて返す。
「………身軽っつうのは、どんな風に身軽なんだ?」
「えーっと…アクロバッ…………宙返りをしたりだとか、屋根の上に飛び乗ったりは出来ます。」
あくろば?
なんて首をかしげる私を気にせず、土方さんと斎藤さんは興味ありげに一ノ瀬さんに目を向けた。
「ほう?見せてもらおうか。
斎藤、稽古場に案内してやれ。俺は他の奴らを呼んでくる。」
「承知しました。」
他の奴ら…っていうと、土方さんは藤堂さんたちも呼ぶ気のようだ。
一ノ瀬さんは斎藤さんと共に立ち上がる。
私からは表情はわからないけれど、何となく凛々しい雰囲気を感じた。
「……って、私はどうすれば良いのでしょうか…?」
私の問いは、誰も居なくなった部屋に虚しく響いたのでした…。
やることも無かった私は、結局稽古場に顔を出すことにした。
もう始まっているかな…?と思いながらひょこっと覗くと。
「おっと危ない!」
「ぅきゃっ!?」
急に目の前を人が降ってきた。
思わず一歩下がって恐る恐る顔をあげると、すみません…と困ったように笑う一ノ瀬さんが居た。
「い、一ノ瀬さん!?」
「おい、他にも見せてみろ!」
「はぁい!じゃ、貴方も見ていてくださいね?」
一ノ瀬さんは私ににっこりと笑いかけると、そのまま逆立ちをしたり宙返りをしたりしてみせる。
軽やかで、着地の音もとても小さい。
汗ひとつかかないで飛び回る一ノ瀬さんは、猫のようにも見えた。
「…っと、こんなもんですかね。どうですか?」
「……これは…」
言いながらチラリと山崎さんの方を見る土方さん。
山崎さんは直ぐに答えた。
「監察としては、是非欲しいです。」
「…山崎がそう言うくらいじゃ、余程なんだろうな。」
土方さんは考え込むように顎に手をやる。
そのまま、時が静かに流れた。
「………いやいやいや、何グタグタしてるんですか土方さん。折角こんなに身軽な人が来たんですよ?欲しいなら欲しい、いらないならいらない、怪しいなら斬る!それだけじゃないですか。早く言ってくださいよぉ。」
それにしびれを切らした藤堂さんの言葉に、一ノ瀬さんは「斬る…!?」なんて反応する。
藤堂さん、さらっと物騒なことを言うなあ…。
「……わかった。お前は監察として入隊してもらう。詳しいことは山崎に教えてもらえ。…それと平助は後で俺の部屋に来い。」
土方さんが出した結論に、
「えー!?」
「あっ、はい!ありがとうございます!」
「…承知しました。行くで一ノ瀬。」
三人はそれぞれの反応をして稽古場を出て行った。
斎藤さんや沖田さんも、遅れて歩き出す。
さあ、私も行こうかな…。
「あ…桃華ちゃん。」
「はい?」
「一ノ瀬君、桃華ちゃんと同じくらい身軽でしたね。」
「……えっ!?!?」
藤堂さんが振り返りながらかけてきた声に、驚いて私は立ち止まる。
な、なんで知っているんだろう……。確かに私は、宙返りや側転も出来るし、家に居た頃は屋根に飛び登って叱られたりもした…けど、そんなこと言った覚えはない……。
「僕、初めて会ったあの日はかなり無茶したんですよ?結構全力で走ったり、太い丸太を飛び越えたり。なのに桃華ちゃん、息を切らさなかったんですもん。身軽というか、運動が得意というか……さっきのやつ、本当は全部できるんじゃありませんか?」
探っているのか、純粋に気になっているのか。
微笑むその顔からはわからないけれど、何故か背中に一筋汗が流れる。
『〜い〜天〜は、〜常〜〜〜〜り、〜〜なのか?』
脳裏に浮かんだ映像は、大人の男性が私を不思議そうに見る姿。
顔や体自体は靄がかかっているようにぼやけていて、誰かはよくわからない…。
「…ちゃん?桃華ちゃん!」
藤堂さんの心配そうな声に、慌てて我に帰った。
「顔色悪いですよ?…もしかして、具合が悪いですか?」
「あっ、いや、大丈夫です!」
ぶんぶんと首を振って、笑顔を見せてみる。
藤堂さんは少し眉をひそめて私を見つめた後、ふっと笑った。
「そうですか。
……さ、僕たちも行きましょう!先ずは土方さんのお説教でーす♪」
「そ、それ私も行かなきゃですか!?」
…映像のことは、今は置いておこう。
今ここで何か言ったら、迷惑になってしまうかもしれないし…。
