「ぅぎゃぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!!!」
「っきゃぁぁぁぁぁぁあぁぁあ!!!!」
…朝早く、誰かの悲鳴が屯所中に響き渡った。
「…何をしているの八十治…」
「と、桃華様ぁ…!」
「様付けしない。」
私の部屋のすぐ近くでのことだったから、もちろん私はその声で飛び起きた。
急いで障子を開けると、何やら腰を抜かした二人の姿が目に入る。
…一ノ瀬さんと、八十治?
なんでこの二人なんだろうと疑問に思って声をかけたのが上の会話。
八十治は私に情けない顔を向けてくる。
「あ、朝廊下を歩いていたら、空から人が…!!」
「ふ、副長室まで屋根を通っていこうとしたら、足を滑らせて……落ちたらこの人が大きな悲鳴を…!!」
…この二人の話から考えるに、冒頭の悲鳴は最初が八十治、次が一ノ瀬さんみたい。
一ノ瀬さん、女子顔負けな悲鳴…!
「…とりあえず一ノ瀬さん、お怪我はありませんか?
あと八十治はそんなに大きな悲鳴をあげないの。みんな起きちゃうでしょう?」
「………あんなでかい声聞いて寝てるやつなんて平助くらいだろうが。」
「「ひっ!!」」
突然後ろから聞こえてきた声に、私と一ノ瀬さんは息を飲んだ。
ひ、土方さん…!
「で?何をてめぇらは朝っぱらから騒いでるんだ?迷惑っつー言葉を知ってんのか?あ?」
「あ?桃華様は関係ねえだろうがそもそも貴様には関係ないんだから話に入ってくるんじゃない。」
「は?何逆にキレてんだよどっちにせよお前らが関与してんのは間違えねえんだろ!?」
あーまた始まった…。
やれやれ、とため息を吐く私と喧嘩をする二人を交互に見つめて、ぽかんと口を開ける一ノ瀬さん。
「えーっと……これは?」
「この二人、仲がとても良くなくて…」
「ボクこんな土方さん初めて見ましたよ…?」
「ですよね…」
何と反応して良いのかわからない、といった表情で呆然としている。
その間にも二人の喧嘩はどんどん熱を帯びてきて。
ついにお互い胸ぐらを掴みあった。
「「てめぇ良い加減にしろよオラァ!!」」
「八十治!!」
とりあえず何とか止めようと私は八十治の左手を引っ張る。
それでも止まない喧嘩に、一ノ瀬さんはポツリと呟いた。
「……仲良いですね、お二人…」
「「何を見たらそうなるんだ!?」」
あのあと、沖田さんと藤堂さんが止めにきてそのまま朝餉の時間となった。
一ノ瀬さんは幸せそうに漬物を頬張る。
「ふふっ、もーらいっと。」
「あっ!!平ちゃんやめてよ!」
早速藤堂さんと仲良くなってるようだ。
でも、気づいてないのかな。
…藤堂さん、沖田さんにご飯盗られてるんだけど…。
「あっ!総司!僕のご飯返してくださいよぉ!」
あ、気づいた。
藤堂さんは沖田さんに向かってむくれてみせる。
その隙をついて、一ノ瀬さんは藤堂さんの漬物を盗った。
「もう食べちゃったから無理だなあ。んで?一ノ瀬が盗ってるのは良いの?」
「えっ!?」
何だか、とても微笑ましい。
藤堂さんが少し不憫だけど、三人の仲の良さがはっきりとわかる。
「…そもそも平助はそんなに食べないだろ。いつも残してるんだから盗られたって変わらないくせに…」
「え?藤堂さん、少食なんですか?」
斎藤さんの小さな一言に、思わず顔をあげた。
藤堂さんは少し不思議そうに首をかしげる。
「僕はそうでもないと思うんですがね。」
「平助は結構食べないんだよね。気がついたらほぼ一日飲まず食わずだったりさあ…。一君がいなかったら生きてないかもねこいつ。」
沖田さんがやれやれ…といった顔で言うと、藤堂さんは不満げに返した。
「別に僕は少なくないですよ!みんなが多いんですー。」
「それにしてもだ。よく倒れないなと隊士達も噂してる。」
「そ、そんなにも…」
これから、私も藤堂さんに気を配ろうと決意した。
藤堂さんは慌てたように話を変える。
「に、にしても本当に一ノ瀬くんと一君は似ていますね!兄弟だったりしないんですか?」
「いやいや、ボクは一人っ子ですよ?平ちゃんみたいな兄弟はいないはずです。」
一ノ瀬さんはきっぱりと言い切った。
斎藤さんも兄弟はいるみたいだけれど、一ノ瀬さんみたいな人は居ないという。
「…じゃあ従兄弟?とか?」
「ボクの従兄弟は女の子ですよ。」
これまた、きっぱり。
本当に血縁関係はないようだ。
「それでここまで似るなんて凄いですね。」
藤堂さんは感嘆したように言う。
…でも、本当にそっくり。
輪郭や体型はもちろんのこと、鼻の形や唇…目は斎藤さんがつり目で一ノ瀬さんがたれ目と向きは違えど、大きさと色はほぼ同じ。
まるで写して描いたみたいだ。
「世の中には自分にそっくりな人が三人は居る…って言いますからねぇ。」
一ノ瀬さんはふんわり笑う。
「そんなことを言うのか?」
「え?言いませんか?やっぱり時代が違うからかな…」
「時代?」
「あ、いや何でもないです。」
時代といっても、年齢はそんなに変わらなそうだけどなあ。
「そういえばーーー」
「おいそこの奴らさっさと食え!!!片付けられねえだろうが!」
他にも色々話そうとしていた一ノ瀬さんたちだけれど、土方さんの一喝で慌ててご飯をかき込む。
そんな中さりげなく斎藤さんのお茶碗にご飯を移している藤堂さんを見て、本当に少食なんだな…と思った。
というか、藤堂さんお味噌汁しかまともに食べていないような…?
…でも。
「早くしろ。」
山崎さんの冷たい声に、そういった考えを捨てて食べる他なくなった。
こ、怖すぎる…!!!
